マイチェンしたメガーヌR.S.でもニュルのタイムアタックは行うのか?

2021/06/14 10:10

純ガソリンエンジンでの最後のタイムアタック!?

マイチェンしたメガーヌR.S.でもニュルのタイムアタックは行うのか?

ルノー・ジャポンに聞いてみました

 

Photos/平野 陽  Text/佐藤和徳(レブスピード編集部)

 

レブスピード2021年7月号(5/26発売号)では、マイナーチェンジが実施されたルノー メガーヌR.S.(ルノースポール)のインプレッションを掲載している。試乗を行ったのはジャーナリストの高平高輝氏だ。

 

マイナーチェンジにより、「R.S.」(標準車)が「R.S.トロフィー」(よりスポーツに振った上位モデル)と同じエンジンを搭載するようになった。これにより280psから300psに増強。また、「R.S.トロフィー」のMT車には、ローンチコントロールが採用された。

 

 

箱根ターンパイクで行われた試乗会。グイグイ曲がるし、登りでも強烈な加速でシフトアップも楽しい!R.S.ならではの痛快な乗り味を堪能できた。

 

 

詳しい試乗インプレはレブスピード7月号を見ていただくことにして、ここでは、試乗会の合間における、ルノー・ジャポン広報の佐藤渉氏との「よもやま話」を紹介。

 

それは、ニュルアタックをはじめ、「R.S.」ブランドから「アルピーヌ」への移行と電動化、開発ドライバーのロラン・ウルゴンによって分けられた「走行モード」によるドラテクと制御介入についてだ

 

 

(※以下は4月7日における、大観山での立ち話の内容です)

 


 

アルピーヌに吸収されて、ニュルアタックはどうなるのか??

 

 

 

 

編集部)

マイチェンされた車両でもニュルでタイムアタックを行う動きはありますか? みんなシビックタイプRとのタイム合戦を注目してますよね。

 

 

佐藤氏)

現時点では情報がないんですよ。なぜかというと、2020年7月に新たなCEOであるルカ・デメオが就任しまして(カルロス・ゴーンの後継)、21年の1月に新しい中期計画を発表したんです。その中で、ルノーの組織を変えまして、いままでルノースポールが担っていた部分を、全部アルピーヌが受け持つことになったんです。

 

 

編集部)

ルノースポールの部署が、性格が違うアルピーヌの管轄になるのですか!

 

 

佐藤氏)

かなり大きな変化です。アルピーヌは、もともとルノーではあるんですけど、独立したブランドとして存在していました。対してルノー自体では、ルノースポールがレースから市販車のスポーツモデルまで統括していていました。アルピーヌはそこにはまらずに、独立ブランドの位置付けだったものが、今度はアルピーヌがルノースポールを吸収して、スポーツブランドをアルピーヌが受け持つことになったんです。

 

 

この先の商品展開を、我々もまだ聞いてはいません。でもF1もアルピーヌになり(21年からルノーは「アルピーヌF1」のチーム名で参戦)、レース活動は全部アルピーヌが担うということです。体制が変わったばかりで、このメガーヌにもR.S.のネーミングは残しているんですが、これがモデルチェンジか、どこかのタイミングで、アルピーヌに変わる可能性があります。

 

 

その、「変わる」といっても、このクルマの延長線で変わるものなのか? まったく別個のクルマと生まれ変わってアルピーヌのブランドをつけて登場するのか正直まだわかりません。

 

 

編集部)

R.S.のスパルタンな仕立てが好きな自分にとっては、ヤワに変わってしまわないか心配になるところです。

 

 

佐藤氏)

アルピーヌになったときに、コンセプトがどうなるのか? ニュルのタイムアタックもどうなるのか? その商品が見えないので、まだまったくわからないんです。

 

 

ひとつだけいえることは、アルピーヌは将来的に全車電動化されます。それがフルEVになるのか、ハイブリッドなのかわからないですが、電動でスポーツブランドをやる大方針は決まっているので、その中にニュルみたいなチャレンジが取り入れられるかどうか? というところですね。

 

もう時効かもしれないんでいうんですけど(笑)、フェイス2というか、このマイナーチェンジしたモデルで、ニュルのタイムアタックを行う話はあったんです。我々も聞いていて、そのうちやるだろうなと思っていたうちに組織が変わってしまった。その意味で、ニュルでのタイムアタックはいま白紙なんですけど、プロジェクトとしてあるかないかというと、仮にあっても一旦止まってますんで、すぐはないんじゃないかと思いますね。

 

 

 

 

 

純粋なガソリンエンジンのR.S.を操って楽しむなら••••••、今しかない

 

 

 

編集部)

これまでニュルのアタックがあって、さらに日本でも各地のサーキットでタイムを出してアピールするという、二段構えの落とし込みがあったので、そういうものが今回も欲しいな〜と思っていたんですが••••••。

 

 

佐藤氏)

そうですよね。でも、R.S.というクルマの立ち位置的には、いまは中途半端な時期で、やりにくいんですよ。

 

 

今回のメガーヌR.S.はマイナーチェンジですけど、モデルライフが3年から4年あるとして、じゃあ次期モデルって話になったときは、おそらくガソリンエンジン1本だけという話にはいかないでしょう。HVかEVの電動化の技術が入った車になることは間違いありません。

 

 

編集部)

次期R.S.に向けて電動化が取り入れられたパワーユニットはあるんですか?

 

 

佐藤氏)

スポーツモデルでは、まだないんですよね。ただ、EV自体はルノーにはすいぶん前からあって、ヨーロッパだとEV専用車で「ゾエ」というモデルが存在します。日産でいえばリーフに相当するようなクルマですね。それをレーシングモデルにしたりしている。そのレース自体はないですし市販化はされていませんが、EVをスポーツ化するのは、そういう形では取り組んでいるんです。

 

ただ、一足飛びにフルEVにいくのか、HVみたいなものでやるのか、そこもまだ決まってはいません。

 

 

編集部)

やはり、電動技術が投入されても、走って楽しいR.S.っぽいもの(概念)を期待します!

 

 

佐藤氏)

我々も同じです。これから電動化されていくのは確実なので、どのブランドでも電動の車をどんどん出していきます。ヨーロッパの燃費規制も本当に厳しくなるんで、燃費をちゃんと稼げるような電動車を出して行かないとならない。

 

 

その中でも、ブランドの特色を各社出していくことになるでしょう。そこでルノーでは、運転の楽しさを、こういった車で表現しているようなところは、まずやって欲しいと思っています。

 

 

じつは先日登場したルーテシアとかキャプチャーのHVが、早ければこの秋に日本に入ってきます。それは「だいぶ運転が楽しい車」だといわれているんですね。もちろん燃費を狙っているものですが、ルノーがやっているF1の電動システムのイメージを受け継いて「Eテック」と名付けられているものです。トランスミッションにドグミッションみたいなものを使って、わりと機構としてはレーシーで、ダイレクト感が強いものを入れ込んでいるようです。

 

 

編集部)

そんなルーテシアだったら乗ってみたい!

 

 

佐藤氏)

そういう風に言われているので、期待するところもあります。

 

 

編集部)

ボタンを押している間は、モーターアシストが強まって速くなるとか、サーキットで前車を抜かすときに使うとか、F1気分で走れたらいいですね。そういう意味では、電動化はスポーツドライビングでの楽しみが増える要素になります。

 

 

佐藤氏)

それに、エンジンだけではやり切れていなかった領域を追求できるようになるでしょう。いまは排ガスや燃費の関係でエンジンの排気量が小さくなって、それをターボを回しているんで、ごく低回転でのトルク感は出しにくかった。それをモーターの特性を活かして、低回転域は一気にモーターで加速して、ある程度のところからエンジンと併用するような手法を追求することで、いままでは味わえなかった運転の楽しみが出せるんだったら、やっぱり面白い方向性だと思います。

 

 

編集部)

やっぱり、ルノーに求められているのは、マニアックかもしれないけど、その部分の楽しさです。組織が変わっても楽しい車を期待したいですね。

 

 

佐藤氏)

アルピーヌA110の開発でも、ルノースポールが関わり、ドライバーはロラン・ウルゴン(R.S.の開発ドライバーで各地のサーキットアタックも担当)を起用していました。今度は組織がひとつになって、ルノースポールでニュルなどチャレンジしていた人たちがそっくりアルピーヌで開発します。そのため、全体をアルピーヌが統括するといっても、中身がガラッとかわることはないでしょう。だから、電動化になったとしても、好みというか、やりたいことはこれまでと変わらないので、面白い車になるんじゃないかと思ってます。

 


 

 

電子制御の介入の少なさと

ドラテクレベルで区切った走行モード

 

 

編集部)

「ルノーのスポーツモデルがいいよね」ってよく聞くのは、電子制御の余計な(過剰な)介入がほぼないことにもあるといわれています。それは、車体側、操作側の両面です。

 

 

スポーツカーといれるモデルでも、サーキット走行ではわずか数ラップで水温などが上昇してしまい、保護のためにブーストを下げたりスロットルが全開まで開かなくなったりします。ラップタイムが極端に落ちてしまいますが、ルノーではアルピーヌA110もメガーヌR.S.も車体側の介入がなく同じように走れます(注:もちろん、ずっと全開を続けていいわけではなく、クルマのために自身でペースを管理する必要がある。逆にいえば「キミ、それは分かっているよね」というメッセージでもある)。

 

 

さらに、操作側においても、ESC(横滑り防止装置)はほぼ全カットになります。メーカーによっては、OFFにしてもつねに介入してきて姿勢を安定させたり、スロットルを閉じさせてしまい、スポーツドライビングをシラケさせてしまう要因でもあるのですが、ルノーはそういう邪魔な介入が入らない。最後までドライバーの裁量を残しておいてくれる。

 

 

このような点も愛好家に支持を受けていますが(最終判断は自己責任に委ねている)、会社の体制が変わっても、そのような味付けは変わらないでもらいたいですね。

 

 

佐藤氏)

走行モードには「ノーマル」「スポーツ」「レース」があって、「レース」では、基本的に安全関係のものは全部オフになり、ドライバーが自身でコントロールする。開発ドライバーのロラン・ウルゴンがいっているのは、なんで走行モードが3つあるかというと、「ステップを区切っているのは、運転が上手になってもらいたいから」ということなんです。

 

 

まずは「ノーマル」。ほどほどのレベルから介入してくるんで、「ここから先は限界が近くて姿勢を乱しやすいんだな」ということを知ってもらう。その領域内でうまく走れるようにになったら次は「スポーツモード」を試してみる。介入し始めるレベルが上がるので、ドライバーはさらに上の領域で攻めていけるようになりますが、最後の最後の危ない領域に入りそうになると制御が介入して教えてくれる。そうやってステップを切って行って、最後の「レース」はアシストなしでドライビングできるように、という狙いで3つ切っているというわけです。

 

 

編集部)

そこが多数のメーカーと違うところ。音が変わるだけとかではなく、高いドラテクレベルまでステップが切られているのが、ルノーらしいところです。

 

 

佐藤氏)

ルノースポールが何をしたいかというと、運転している人が、深いところまで楽しみましょうという領域に行かせたいがためなんですね。だから、最後の最後まで車が面倒を見ますという発想はそこにななくて、最後の最後は自身で運転するというのがゴールなんですよ。電子制御の介入の考え方も、向かっている方向が違うんですよね。

 

 

編集部)

スポーツドライビング愛好家から支持を受ける理由がわかります。こういった話を聞いて、ますますR.S.の姿勢が好きになっちゃいますね。でも、こういうことを聞いて喜んだり好きになるのは日本人だけ(笑)!?

 

 

佐藤氏)

R.S.の開発陣も日本人が好きですよ。なんで好きかっていうと、ユーザーもそうだしジャーナリストもそうだし車に強く興味を持っている。彼らを日本に呼ぶと、嬉々として来てくれる。ヨーロッパだと、「なんでこうなっているか」なんてあまりクルマの細かいところを聞かれることがない。でも日本では、我々も日本人だからわかりますが、なんでこうなっているかお伝えすることで、車に対する納得感というか、車に対する思い入れとか想いが高まって、それが購入につながったりする。だから、そういう質問をすると開発陣もとても喜んでしまって、「そういうの聞くの、ほんと日本人だけだから(笑)」って。

 

 

箱根ターンパイクも開発の舞台だった

 

佐藤氏)

スペックだけで横並びで見たときに、飛び抜けているわけではない。さらに馬力の大きい車はいくらでもありますし、もっと優れた車もあるんでしょう。しかし、こういうカテゴリーの中で、「こういうつもりでこういう車を作ったら、こういう風になりました。どうですか?」って提案している車はいまの時代にはなかなかなくて、そういうところを想いながら乗ると、いい方は難しいですけど、開発ドライバーのロラン・ウルゴンが緻密に緻密に組み立てていったものが垣間見れるんです。運転していてそういうところに通じたところでの面白みというか、そこがルノーに乗っていての醍醐味なんです。

 

 

たんに速く走るというよりも、「コーナーをクルって回る感じ」、「これをやりたかったんだよね」みたいなことがわかった時の一体感って快感なんですよ。そういうところを我々もお伝えしたいんで、ルノースポールの連中をしょっちゅう呼んで、話を聞いたりしています。あと、この箱根も、ターンパイクも結構走っているんです。「日本の車好きがみんなここを走るから、走った方がいいよ」っていって、帰国する飛行機の何時間前で時間がなかったんですけど、「じゃあ、行ってみるわ」って感じで。で、「日本のやつらはこんなところを走っているんか!こりゃおもしろいな」っていって、開発の要素にきちんと取り入れているんです。

 

 

編集部)

走り好きの気持ちを、本当にわかってくれているんですね。

 

 

佐藤氏)

そういうところを我々も伝えていきたいですし、そういう想いでつくっている車だってことの理由がわかるかと思います。

 

 

■ルノー・ジャポン https://www.renault.jp/