木下みつひろ講師がアナタの愛車とドラテクを診断!

2021/07/24 14:00

木下みつひろ講師がアナタの愛車とドラテクを診断!

 

5月27日富士スピードウェイ ジムカーナコース

REVSPEED『愛車診断セッティングアドバイス+ドラテク上達レクチャー』

 

Photos/堤 晋一    Text/塩見 誠

 

「うまく走れないけどドラテクなのか、クルマのセッティングが原因なのか判断できない」。そんな読者の悩みを解決すべく、レブスピードは体験型取材を行った。参加してくれた読者は11名。広くて安全な富士スピードウェイのジムカーナコースで、木下みつひろ講師が読者の愛車を試乗、そして助手席で読者の運転をチェックした。その診断コメントは、参加できなかった多くの人にも役に立つ内容であるはずだ。

 

同乗走行、逆同乗とまるまる1日精力的にアドバイスを行なった木下みつひろ講師

 

まずはコースを完熟走行。当日の天候は、梅雨らしい本格的な雨!しかし、タイヤが減りにくく、低い次元からでも滑り出すので、ドライビングの反復練習にはうってつけだった

 

 

富士スピードウェイのジムカーナコースは、フラットな路面の広場。5月27日、ここを舞台にレブスピードの体験取材会『愛車診断セッティングアドバイス+ドラテク上達レクチャー』が開催された。

 

当日は、あいにくの雨。路面は滑りやすく、ラフな操作をするとすぐにタイヤの限界を超えてしまうことから、ドラテクチェックという観点では、絶好のコンディションといえる状況。

 

木下みつひろ講師がパイロンで設定したコースは、サーキット走行を想定した速度域やライン、操作を必要とすることを狙っている。

 

 

コースは、3つのコーナーから構成されている。ひとつ目のコーナーは、スタート位置から加速し、早めのシフトアップで3速まで入れたところから、ヒール&トーで2速へシフトダウンして曲がっていく右コーナー。次に、優しいブレーキングでノーズを入れていく左コーナーがあり、すぐに切り返して曲がる右コーナー、というレイアウト。

 

このコースを、木下講師の各車チェックを交えつつ、各自が午前、午後と反復走行を行なった。

 

「パイロンで設定したコースは走りにくい、という人もいるかと思います。しかし基本となるドラテクを磨くには、パイロンでカクカク曲がるのではなく、きれいにひと筆書きのように走ること。それにはどうすればよいのか? ステアリングを切るタイミング、ブレーキリリースとの兼ね合いなどを感じてもらうことが大切です。

 

 

また、ボクが乗ることによって、これはクルマが原因で走りにくいとか、それならこうすればよいという、クルマのセッティングのアドバイスをしながら、同時にそのクルマに合わせた操作についてもレクチャーしていこうと思っています」と木下講師は語る。

 

木下講師が愛車を診断した後は、助手席で参加者のドライビングをチェックする

 

参加者は11名。参加したクルマは多彩で、BRZやNDロードスター、WRX STI、RX−7、RX−8、S2000、S15シルビア、アルテッツァ、さらにはM2、エキシージといった輸入スポーツカーも。それではそれぞれのクルマがどんなチューニングを行っているのか、そしてどんなドライビングの悩みがあり、どう解決すればよいのかを見ていこう。

 

 

次ページからは参加者を紹介

丸山淳一さん  AP1  S2000

 

<チューニング>

■アームズ車高調サスキット(F:4kg/mm R:5kg/mm) ■ハンコック Ventus V12

 

86/BRZやシルビアのチューニングでお馴染み、長野市にあるアームズの丸山淳一代表が、ワインディングで走りを楽しむために所有しているのがこのS2000。

 

「もともとS2000というクルマは、ホンダが手掛けたメーカー製のチューニングカーだと思っています」と丸山代表。そのため特別なハードなことは施さず、サスペンションを自社製の車高調しているもいのの、軟らかめのスプリングをセットしている。

「ワインディングはしっかりロールさせないと走りづらいですから」

 

86やBRZをチューニングするにあたって、メーカー製チューニングカーで走っていれば、いろいろなヒントが得られるのではないかという狙いもあって手に入れたS2000なのだが、純粋に走りの楽しさにも惚れ込んでいる。

 

<木下アドバイス>

ブレーキをリリースしていくときに戻しのペダルストロークを残しながらもステアリングを切っていけているので、ノーズがぐいっと回り込み、きれいにコーナーを立ち上がれている。これを一度経験しておくと、身体がそれを覚えてくれるので、次に走ったときの基準となりやすい。クルマ自体はとくに問題なく、扱いやすい。ほとんどノーマルに近いクルマだが、それだけに無理も効いてしまうので、できるだけ丁寧に、でもメリハリをつけて操作をすることで、曲がり方が違ってくる。今回はブレーキの効かせ方が弱いときもあったので、そういう点に注意しながら乗ってもらうと、もっとクルマのポテンシャルを引き出して走れるようになるでしょう。

 

 

<丸山さんの感想>

ヘビーウエットでの走行はあまり機会がないことですので、よい経験ができました。木下さんにもいわれましたが、ブレーキングが弱めなところがあり、そのせいでブレーキを抜きながらステアリングを切っていくときの、荷重の変化が小さくなっているところがありました。これはもっと積極的にできただろうと思います。サスペンションをワインディング向きに、よく動くようにしてありますので、もっと積極的に荷重移動を使っていくことを意識したいと思います。

 

 

平塚由紀人さん GDBインプレッサWRX STI RA-R

 

<チューニング>

■ブレーキパッド ウインマックスAP2 ■タイヤ ディレッツァZIIスタースペック

 

息子さんと一緒に来場していた平塚さん。このGDBは、息子さんのクルマだそうだ。普段はカートで遊んでいたりもするし、筑波サーキットも走っているそうだが、今回はサーキットでタイムが出る走り方を教えてもらいたいということから参加している。とくに、素早いカウンターステアの当て方や、最短で止めるブレーキングについて、アドバイスを希望している。

 

 

<木下アドバイス>

このブレーキパッドはしっかりと車速を落としてくれる。そこでそれを利用して、直進状態でしっかり強くブレーキペダルを踏んでフロントサスペンションやタイヤを潰してストロークさせておき、そこからゆっくりブレーキをリリースしながらステアリングを切っていくと、アンダーステアが出ずノーズが入ってくれる。

 

その操作とストロークのメリハリがなく、弱いブレーキでコーナーに入ると、ステアリングを切ってもアンダーステア、アクセルを踏んでもアンダーステアとなり、タイムは出ない、ということになる。

 

ドライビングの癖として、ブレーキペダルを踏みつつステアリングを切る、というものがあるようなので、ペダルをゆっくりゆっくり抜きつつステアリングを切っていく、というイメージを大事にしたい。

 

<平塚さんの感想>

アドバイスを受けてブレーキペダルをしっかり踏んで減速し、ブレーキペダルを戻しつつステアリングを切るようにすると、フロントが入っていくようになりました。クルマにはとくに問題なし、と言ってもらえたのも、うれしかったです。

 

 

松本拓也さん ZC6 BRZ

 

<チューニング>

■吸排気系チューン ■フラット車高調サスペンション ■ECU ■L.S.D.  ■ファイナルギア変更 ■フロントブレンボキャリパー ■ミシュラン パイロットスポーツ4

 

 

クルマが曲がる姿勢にするにはどうしたらよいのか?  知識はあるが、実践では上手くできない、という松本さん。その感覚を覚えたいことからレッスンに参加。BRZは吸排気やECU、サスペンションなど、ひととおりのチューニングを施している。BRZの前はNDロードスターNR-Aに乗っていたが、ロードスターはオーバーステア練習車のように感じられていて、とくに意識せずともきれいに曲がれていたのに、BRZに乗り換えたらアンダーステアしか出ないとのこと。その感覚的な擦り合わせを上手くできれば、とのことだった。

 

<木下アドバイス>

ブレーキをリリースしていくときにステアリングを切っていく、という基本を大事にすることがいちばん。そうすれば、フロントが外に逃げて行ってしまうことはない。逆にいうと、ブレーキでアンダーステアが出るというのは、ブレーキをリリースする前にステアリングを切ってしまっているから。そこで重要なのが、リリースしていくスピード。そこが上手くいくと、フロントがしっかり入り、ちょっとのアクセルONでもリアが出るようになる。

 

BRZはFRなので、アクセルを積極的に使ってリアを出す、という走り方も楽しいが、ブレーキリリースとステア操作のタイミングで向きを変えられれば、アクセルONでアンダーとなる失敗もしにくくなるし、リカバリーもしやすくなる。進入で前荷重にしておくと、大きな操作量でなくてもオーバーステアに持ち込める。

 

クルマのセッティングはまとまっていてよい感じ。ただ、フロントの沈み方に対して、リアの伸びが若干強いので、短く鋭いブレーキングをしたとき、リアが伸びてくれない。それが、前荷重時のリアのトラクション抜け、という傾向となって現れている。

 

<松本さんの感想>

縦のブレーキがまだまだ弱い、ということがわかりました。前荷重をしっかり掛けてからゆっくり抜く、というのが、わかってはいても実現できていませんでした。ブレーキペダルをしっかり踏まないと、抜いていくときの「戻すペダルストローク」が短くなってしまうというのは、なるほどなと思いました。自身では強く踏んでいるつもりでも、アドバイスを受けて走ってみたら、まだまだ足りなかったです。何度も試してみたら、ABSが作動する寸前までしっかり踏むことができたときもあったし、そこでリリースをしながらステアリングを切ると、すっと向きが変わったときもありました。それがわかってきたのがありがたかったです。

 

三浦義一さん ND5RC ロードスター

 

<チューニング>

■Rマジック車高調サスキット(F:6kg/mm R:4kg/mm) ■ディクセルMタイプ ブレーキパッド ■オートエグゼ クイックシフター ■フジツボマフラー ■ディレッツァZIII

 

サーキット走行は初心者、と謙遜している三浦さんだが、袖ケ浦フォレストレースウェイでは100周以上走っているそう。愛車のNDロードスターは、Rマジックの車高調をセットしているが、あくまでストリート仕様車として仕上げたもの。今回は「止める」「曲げる」ためのブレーキングを知りたいとのことで参加。さらに、今後ブレーキパッドを交換するときの、選び方や前後バランスの決め方なども聞いてみたい、とのことだった。

 

<木下アドバイス>

クルマは凄く穏やか。ストリート仕様車ということだったが、たしかにそのとおりで無理が効く仕様となっていた。サスペンションもストローク感がわかりやすく、動きはしなやか。ブレーキペダルをリリースしたとき、それが早過ぎたのか、ゆっくりだったのかもわかりやすい。ドライバーの操作の通りに動いてくれる。お世辞抜きで、これがチューニングなんだよな、と思わせてくれる、乗りやすいクルマだった。

 

ブレーキもちょうどよい感じ。もう少し制動力があってもよいが、もし換えるのなら、前後同時に交換したほうがよい。メーカーはバランスも考えてパッドのチューニングを行っているので、交換はフロントだけとかではなく、同時に行うのが基本。現状、よい感じにバランスがとれているので交換しなくてもよいが、もし換えるのなら、初期制動がもう少し高いブレーキパッドを選ぶと、より乗りやすくなるはず。たとえばサスペンションと同じRマジックのパッドだと、初期もあるが効き過ぎもしないので、よいのではないか。

 

運転に関しては、ブレーキをリリースする速度が、若干速め。ペダルを踏むところまではよいので、リリースをゆっくり戻しながらステアリングを切る、というところをより意識したい。右コーナーは上手くできていたが、左コーナーは抜くのが速い傾向があるので注意。

<三浦さんの感想>

同乗してもらってわかったのは、ブレーキの抜き方が、ゆっくりにしているつもりでもまだまだ早い、ということでした。じわっと優しく抜く、というのは、思っていた以上のものだったことがわかりました。また、複合コーナーでの曲がりかたは、なかなか上手くできなかったので、練習していきたいと思います。クルマのチューニング、ブレーキバランスは悪くないことがわかりましたので、もっと操作を意識していこうと思っています。

 

 

 

長谷川 健一さん F87 M2

 

<チューニング>

■KWクラブスポーツ サスキット■エンドレス モノブロックブレーキキャリパー ■ACシュニッツァー パフォーマンスアップグレード ECU   ■M4GTS用デフ制御プログラム ■アドバン  ネオバAD08R

 

以前は車高調がKWのバージョン3だったのだが、より精密なセッティングをしたいということから、クラブスポーツに換えている。ブレーキキャリパーは、エンドレス走行会で当選(!)したという、モノブロックを装備していた。今回は、そのクラブスポーツのセッティングが、現状のままでよいのか、もっと楽しく走るためにはどうすればよいのかを聞いてみたい、とのことだった。

 

<木下アドバイス>

パワーがあって暴れん坊、という感じのクルマだが、エンジンの吹け上がりはよく、乗っていて楽しい。そのパワーをコントロールしないと、アンダーステアになる。これを理解して操作をする必要がある。サスペンションは、よい感じ。トラクションコントロールは、スポーツプラスにして走っていると、ここで滑るのか、と思える部分があった。そこでOFFにしてみたところ、グリップ力が高まったように感じられた代わりに、滑り出しがわかりにくくなる。

 

パワーがあるだけに、アクセルだけで向きを変えたくなるところだが、そうするとアンダーステア傾向となるので、やはりこのクルマも、ブレーキをゆっくりリリースしながら向きを変え、そこからアクセルを踏む、という動作をしないと、行き当たりばったりになる。パワーを活かすためには、よりしっかり速度を落とし、向きが変わったらアクセルON、というメリハリが必要だ。

 

<長谷川さんの感想>

動きのシビアさやアンダーステア傾向から、サスペンションが硬過ぎるのでは、と思っていましたが、いまのセッティングで悪くない、ということだったので、自身の扱いかたに問題があることがわかりました。これまではパワーを利用して向きを変えようとしていたんですが、パワーがあるからこそ荷重移動を使って向きを変えなければいけないし、そのメリハリをはっきりさせることで、アンダーステア傾向もなくなる、ということを助手席から見ることができたのは、よい経験でした。

 

 

 

伊藤 遼さん FD3S RX-7

 

<チューニング>

■パンスピード車高調サスキット(F&R:16kg/mm) &ウレタンブッシュ ■Rマジック ラジエーター ■Rマジック スポーツキャタライザー ■柿本改Regu.06&Rマフラー ■Rマジックブレーキパッド  ■ナンカンNS2R

 

車歴は1年ほど。ジムカーナ場で走行するのははじめてという伊藤さんだが、父がRX−8に乗っていて、それを借りての筑波サーキットでの走行経験はある。FD3SはIV型。ボディ補強なしで車高調サスをセットし、ハイグリップタイヤを履いている、というのが、はたして正しいのか、ボディが負けてはいないのか、という部分を聞いてみたい、とのこと。普段からこのサスペンションでどこでも走っていて、高速道路のつなぎ目を越えるときの突き上げだけ乗り心地を意識するとのことだった。

 

<木下アドバイス>

クルマは、そつなくまとまっている、という感じ。基本に忠実に操作をすれば、それに応えて曲がってくれるようになっている。それだけに、はっきりと操作をする必要がある。

 

アドバイスする前の運転は、ブレーキングポイントが手前過ぎて、さらにゆっくりブレーキペダルを踏んでいくので、荷重が前に乗り切っていなかった。そのため、ブレーキペダルをリリースしても荷重移動が小さく、曲がらない結果に。曲がらないからステアリングを大きく切る、するとアクセルペダルを踏むタイミングが遅くなり、速く加速をしたいから大きくアクセルペダルを踏んで、結果くるっと回ってしまう、という連鎖になっていた。

 

こういう場所でのトレーニングは、思い切りブレーキペダルを踏んだり、アクセルペダルを踏んでも、リスクが小さい。なのでABSが効いたり、スピンしてもよいので、どこが限界なのかを試してみること。やり過ぎてしまったら、次はちょっとだけ緩めて限界を探っていけばよい。

 

<伊藤さんの感想>

自身ではブレーキを頑張っていたつもりだったのですが、木下さんは、もっと奥まで行って、強くブレーキペダルを踏んでいるのがわかりました。ブレーキでサスペンションやタイヤを潰す、というのを、身体で感じました。自身が運転しているときに同乗してもらって、はじめて走ったときよりもよい感じに、コンパクトに曲がれるようになったと思いますが、木下さんに運転してもらったときと比べると、まだ甘い部分がたくさんあります。その運転を再現できるように、もっと練習したいです。

 

奈良岡 優さん SE3P RX-8

 

<チューニング>

■Rマジック 車高ダウンスプリング ■Rマジック エキゾーストマニホールド/キャタライザー/マフラー ■RマジックECU ■Rマジック L.S.D. ■エンドレス  ブレーキローター■Rマジック ブレーキパッド ■ゼスティノ グレッジ07R

 

モーターランド鈴鹿をホームとしている奈良岡さんは、今回タイヤについて教わりたくて参加を決めた。とくに、タイヤの内圧をどういうふうに判断すればよいのか? ドライビング時のフィーリングから内圧を決めるのか、純粋にタイムの変化を見ながら内圧を決めればよいのかがわからないとのこと。車両的には、Rマジックのアイテムを中心としたまとまりとなっている。

 

<木下アドバイス>

走り始めてすぐ感じたのは、今回の大雨ではタイヤが予想以上にグリップしない、ということだった。横方向の引っ掛かりが感じられず、ステアリングを切るとすぐに横滑りがはじまる。そのため、かなり思い切って車速を落とさないと、つねにドリフトしてしまう。ブレーキのフィーリングは凄くよい。減速の仕方や、リリースのフィーリングがよいので、その部分は扱いやすい。しかしタイヤの横方向のグリップがないので、きれいに荷重を抜いて行っても、滑り出す。そのため、ブレーキングもそうだし、立ち上がりのアクセルの踏みかたも繊細にコントロールしていくことで、濃密な練習ができるはず。

 

 

<奈良岡さんの感想>

これまでの操作は、気合いでエイヤっと曲がっていて、タイヤに大きな負担を掛けていたことがわかりました。ブレーキングを強く短く、ブレーキペダルのリリースは凄くゆっくり、というのは、想像以上でした。とくにブレーキペダルのリリースは、ウエット路面ということもありましたが、我慢して残していかないと曲がらなかったです。

 

タイヤの内圧は、しっかりデータをとって決めていく、ということを教えてもらいました。走行によって上がる内圧を想定しての、走行前の内圧のデータや、走行直後の内圧を毎回測定していきたいと思います。しかしこれまでの、タイヤに無理をさせての走り方だと、タイヤの内圧は高くなりがちだと思うので、今回教わった走り方でのデータ測定をしていきます。

 

 

 

山口貴史さん SXE10 アルテッツァ

 

<チューニング>

■オーリンズ車高調サスキット(F:9kg/mm R:7kg/mm) ■ロアアームブッシュ交換 ■L.S.D. ATSカーボンL.S.D.(ファイナルギア4.5) ■ORCクラッチ ■デフマウントカラー ■FRPボンネット ■電子スロットル解除 ■アミューズR1チタンマフラー ■ハンコック ヴェンタスR−S4

 

 

ジムカーナドライバーである山口さんの悩みは、同クラスのライバルである86/BRZに差をつけられてしまうこと。そこで自身では気付いていない、ドライビングの問題点を知りたいということで、今回の参加となった。アルテッツァは駆動系を中心として、手を入れている。ノーマル状態のレスポンスの悪さや、低速からの加速の悪さを改善するため、スロットルやファイナルギア変更を行っている。

 

<木下アドバイス>

クルマは全体的によい。サスペンションもしなやかに動く。そのしなやかな動きを活かすためには、直進状態でしっかりと加速をし、鋭くブレーキングをして荷重を前に乗せて、ゆっくりと荷重を戻しつつステアリングを切って向きを変える、この操作が必要。それがやりやすいクルマとなっているので、練習しやすいはずだ。

 

とくにステアリングの切り方は、慌ててすっと切ってしまうのではなく、じわっと切っていく。そうするとクルマが勝手に曲がり始めるので、ちょっとのアクセル操作で、リアが外に出て向きが変わっていく。その感覚を大事にしたい。

 

山口さんは基本操作はできているが、2コーナーに入っていくときは、ステアリングを切りながら強いブレーキを掛けてしまいがちで、アンダーステア傾向となっている。ここは、強いブレーキを掛けるために、直進状態となるライン取りをすれば、もっときれいに曲がれるようになる。そのライン取りに注意して走ると、ジムカーナのタイムアップにつながるだろう。

 

 

<山口さんの感想>

ひとつ目のコーナーと、3つ目のコーナーは上手くいったと思えるときもありましたが、中間のふたつ目のコーナーでのブレーキングが、どうしてもステアリングを切った状態での強いブレーキとなってしまい、アンダーステアが出てクリップにつききれませんでした。

 

しかし木下さんのアドバイスを受けて、パイロンの位置を意識しながらコース取りとブレーキングポイントを見直したところ、「こういうことか」と思えるときがありました。それが上手くいくと、車速が明らかに速くなりました。

 

早く向きを変えたいからと行って、早いタイミングでステアリングを切り出すのではなく、クルマが曲がってくれるようにするほうが、結果として速く走れるというのがわかりました。

 

 

山本賢一さん ZC6 BRZ

 

<チューニング>

■レボリューション車高調サスキット(F&R:11kg/mm) ■ブッシュ補強 ■クスコMZ  L.S.D.■レボリューションECU ■ポテンザRE-71RS

 

山本さんは、袖ケ浦フォレストレースウェイをホームに、スポーツ走行を楽しんでいるそうだ。エンジンはノーマルだが、コンピュータに手を入れ、さらに駆動系をチューニングすることで、無駄なくパワーを使い切れるようにしている。今回は、ブレーキの掛け方や戻し方、ステアリングを切り出すタイミングなどについて聞いてみたいことから参加。アライメントやL.S.D.の使いこなし方も質問してみたいとのこと。

 

<木下アドバイス>

全体のバランスがよく、操作に対しても素直に動いてくれていて、大きな問題はないと感じられた。L.S.D.も適切に効いてくれているので、狙ったタイミングでトラクションが掛かっているし、タイヤのグリップもしっかりと感じられていた。

 

ドライビングは、やはり減速するためのブレーキングと、そこからリリースしていくときの速度が近く、せっかく前に荷重を移しても、すっとそれが元に戻ってしまっている。その状態でステアリングを切っているためにクルマが曲がらない。曲がらないからステアリングの舵角が増える。舵角が大きいのでアクセルペダルがなかなか踏めない、という悪い流れとなってしまっていた。ブレーキペダルを戻すときはじわっと、そうやってリリースしながらステアリングを切っていくと、クルマは勝手に曲がってくれる。その点を注意してもらいたい。

 

<山本さんの感想>

VSCを全オフにできないので、滑り出すと制御が入ってしまっていたのですが、木下さんに教えてもらってブレーキペダルのリリースをゆっくりにしながらステアリングを切っていくと、制御が介入しにくくなりました。最後に練習時間があった定常円旋回は、なかなか上手くできなかったのですが、何回か、アクセルのオンオフとステアリングの切り方が上手くいくときがあって、何となくですが、イメージはできました。そのイメージを大事にしながら、今後の課題として練習してみたいと思います。

 

 

中沢 武さん S15シルビア

 

<チューニング>

■アームズ車高調サスキット ■ボルグワーナータービン ■パワーFC ■340ps/45kg-m ■ブレーキパッド アームズ ■ハンコックV12

 

 

タービン交換をしたシルビアで参加の中沢さん。アームズでチューニングを行なっている。パワーは340ps。駆動系も含めて手が入っているが、基本的にはドライ路面用のセッティングとなっている。今回は、木下みつひろ講師にこのシルビアを運転してもらえるということから、その技を盗んで自身の走りに活かしたい、ということを狙っての参加だ。

 

<木下アドバイス>

ドライに合わせたセッティングとなっているので、ヘビーウエット路面ではやはりドライビングは難しい。しかし、クルマそのものが持っているパフォーマンスは高く、ドライバーの操作に対しての反応は素直なので、こういう路面では練習のし甲斐がある。

 

ドライビング面では、ブレーキの扱い方が丁寧だったことが印象的。基本的な操作はクリアしているので、タイヤからのフィードバックが意識できれば、なおよくなると思う。

 

具体的には、コーナリング時、タイヤで発生するジャダーを意識するということ。このジャダーは、アンダーステアとオーバーステアの境目で発生するので、これを感じられれば、路面の状態に関わらず、ここからオーバーになるとか、いまはアンダーだとか、判断がしやすい。もちろんこのジャダーは、タイヤの状態によって、出にくかったり出やすかったりもするが、つねに意識しておくことが大事だ。

 

<中沢さんの感想>

木下さんの走り方は、極めて参考になりました。とくにここからリアが出る、というときのスムーズな対処の仕方は、さすがだと感じました。そこで教わった、タイヤのジャダーを感じながら走るのは、今後の目標となります。それをものにできれば、木下さんのように、スムーズな対処ができるようになるのではないか、と思います。クルマ自体の問題点もとくにない、といってもらえたので、あとは練習あるのみですね。

 

 

梅田 剛さん(医師だけに、白衣を撮影に合わせて着用)1117 エキシージ  

 

<チューニング>

■BSKフルチューニング(フルカーボンボディ クロスミッション 吸排気系 ブレーキ サスペンション) ■アドバン ネオバAD08R

 

番外編でレブスピードR会講師でもある梅田剛さんも飛び入り参加。新型コロナウイルスの影響により、今シーズン参戦予定だった86/BRZレースへの参戦を取りやめたこともあって、練習用に購入したのがエキシージだ。チューニングはBSKが手掛けたもの。ボディシェルはカーボン、ウインドウはアクリル、吸排気系やブレーキ、フルピロのサスペンションアームもBSKのオリジナル品が装備されている。

そんなエキシージで、初のウエット走行。車両のバランスについて木下講師のコメントは?

 

 

<木下アドバイス>

ブレーキキャリパーを交換している関係からか、フロントよりもリアブレーキが先に効いている感覚があって、フロントに荷重が乗る前に減速が終わってしまう。こういう状況は、ビッグキャリパーを装備したGT−Rとかでもありがち。その前荷重のなさが、ここがちょうどよい、と感じられる、スイートスポットの狭さとなって現れている。

 

ミッドシップということもあるが、そのスポットを外してアクセルを踏むと、すぐにスピンしてしまう。そのためこのクルマの、いまの状態のままきれいに走るなら、ブレーキを抜く量とステアリングの舵角を、繊細にコントロールする必要がある。

 

改善点は、フロントブレーキの効き遅れ。ブレーキペダルを踏んだ瞬間、フロントがきちんと効くようにしたい。現状はリアが先に効いてからフロントが効くため、ステアリングを切るためにブレーキペダルを抜く時間が長くなってしまい、そのぶん舵角が深くなり、最終的にはリアタイヤのグリップが抜けた状態でアクセルを踏むことになるので、スピンしやすくなっている。フロントブレーキがしっかり効けば、ちょっと抜くだけでステアリングを切ることができる。そのときはまだ、舵角が深くないので、リアがグリップしたまま向きを変えるることができるようになるはずだ。

 

<梅田さんの感想>

86とかロードスターに比べて、きれいに曲がれるポイントが狭い、と感じていました。それは、ブレーキバランスが前寄りにあるからかリアブレーキを強くしようかと思っていましたが、フロントブレーキの効き遅れであることがわかりました。ブレーキペダルを長く踏まないと荷重が前に移動しないと感じていた原因もはっきりしました。クルマを曲げようとする時間が長く掛かっていて、そこでアクセルを踏むとすぐにリアがブレークしてしまうのも、前荷重が素早く掛かっていなかった、ということだったのです。この状態でのシビアなブレーキの抜き方は、まだまだ練習が必要だな、と感じました。

 

 

次ページは、最後に木下講師のまとめコメント

 

 

木下講師の総括

 

今回のように上達のために設定されたコースでの走行によって得られるもの、というのがあります。

 

(1)まず1コーナーでは、直進で早めにシフトアップして3速に入れるという加速状態から、フルに近いブレーキングとヒール&トー、そしてブレーキのリリースとターンインという、基本的な部分をチェックするというもの。

 

(2)1コーナーをクリアして左に旋回する2コーナーでは、アクセルOFFだけではアンダーステアとなるので、ブレーキングをし、どこまでブレーキを残せばフロントが入ってくれるのかを確認。

 

(3)最終の右コーナーはタイトなものとすることで、瞬間的な強いブレーキングで車速を落とし、ブレーキペダルのリリースはゆっくりとすることで小さく曲がる。

 

このような一連の動作を終えたうえで、

(4)ゴール地点には、「ブレーキ開始位置」と、「ブレーキリリースの開始タイミング」、そして「完全にブレーキをリリースするタイミング」の3ヶ所にパイロンを置くことで、曲がるためのブレーキングのペダルストローク操作を意識できるようにしている。

 

こういう計算されたレイアウト設定は、サーキットでは難しいものです。

 

そのうえで、気付いた点があります。それは、ブレーキング。ほとんどの参加者は、(1)で一度は3速からのヒール&トーを試してくれたのですが、その一度のトライのあとは、2速までの加速からのブレーキングとなっていました。上手くやろうとする意識が強く、ヒール&トーをすると減速のブレーキがおろそかになるとか、ブレーキリリースとステアリングのタイミングがとれなくなる、ということから、失敗を恐れがちだったのではないかと思います。

 

しかしこの場はトレーニングなので、失敗してもよいのです。それをしっかり伝えられなかったのは、講師としての自身の反省点と感じています。参加者の方も、コースを走る際には、ただ走るのではなく、想像を膨らませてもらい、どう走るのかを考えてもらえば、より濃いトレーニングになったのではないかと思います。

今回のコース設定では、(1)で低い回転数でヒール&トーをすることになります。そのため、アクセルをあおりすぎて高い回転数でシフトダウンをすると、せっかくブレーキングで前荷重になったクルマが、加速状態となってしまい、荷重が後ろに行ってしまうことになります。そのため、アクセルをわずかにあおって荷重を前に残したままブレーキを抜いていく操作が必要で、これはとても難しいことです。しかしその操作がきれいにできれば、もっと車速が高いサーキットに行ったときには、ブレーキングの時間が長くなるため、簡単に、正確に前荷重のままのヒール&トーができます。

 

 

また、今回参加してもらった方々のクルマは、どれも極めて動きのよいサスペンションとなっていました。言い換えれば、とんがったところがないアシという感じです。そのため動きが素直で、まとまったクルマが多かったと思います。

ブレーキに関しても、コントロール性が高いクルマが多く、サスペンションもブレーキも、アフターパーツはもの凄く進化しているな、と感じました。ひと昔前のように、ブレーキが効きすぎ、というクルマはなかったですね。ABSが効いてもリカバリーができる。そういうクルマばかりだったので、ドライバーとしては扱いやすいし、練習もしやすい、というものとなっていたと思います。

 

ただし、駆動系に関しては、やはりL.S.D.はほしいところ。数台、L.S.D.が入っていませんでしたが、サスペンションとブレーキ、L.S.D.は、スポーツ走行でクルマを操作する、少しでも上手くなりたい、という中での最低条件と考えたほうがよいでしょう。

 

カリキュラムの最後には、定常円旋回の練習エリアを設けた

 

雨で滑りやすい状況だったので、低い速度でいろいろなことが試せた、というのがよかったと思います。強過ぎるブレーキではABSがすぐ効きますし、速くステアリングを切るとアンダーステアが出てしまう。それがわかりやすい状況だったということから、参加者のドライビングをチェックしやすかったですし、クルマのサスペンションの動き、ブレーキの使いやすさなども確認しやすかったです。もちろん、参加者も、小さなリスクでいろいろ試すことができ、よい練習になったのではないでしょうか。

 

木下講師も同乗、逆同乗と1日お疲れ様でした!

 

次回は、ヒール&トーのトレーニングもはっきりと組み込みたいと思っています。正しいヒール&トーができれば、より短い距離での制動が可能となります。これを身体で感じてもらって、どこがポイントなのかを実践し、それとコーナーへのアプローチをつなげていければよいな、と思っています。