テインの新製品EDFC5の「躍度」制御が画期的! 試乗レポート(後編)

2023/01/30 17:02

テインの新製品EDFC5の「躍度」制御が画期的! 試乗レポート(後編)

 

Photos/奥隅圭之 Text/塩見 誠

 

見やすい表示でモーター作動音も低減。新たに「躍度」制御を取り入れたEDFC5

 

 

テインのEDFCは、2002年に初代モデルが発売された。車内に設置したコントローラーを操作することで、ショックアブソーバーの減衰力調整部に装備されたステッピングモーターが作動。ボンネットやトランクを開けることなく、走行中でも減衰力調整ができるというのは、まさに画期的なものだった。

 

その後EDFCはGセンサーを内蔵し、その動きに伴って減衰力を自動調整したり、GPSからの情報を元に速度による制御を可能にするなど、進化を続けてきた。

 

 

現在のメインストリームである「EDFCアクティブプロ」がそれで、速度と加減速G、旋回Gを統合して減衰力調整を行なってくれるため、カスタマーはベースとなる数値さえ決めてしまえば、ストリートからサーキットまでそのままで走りを愉しむことができる。また、運動特性を変えたいと思ったときにも、コントローラーの操作ですぐに行える。そんな機能性や利便性の高さから、EDFCシリーズは累計10万台分を販売するというヒット商品となっている。

 

EDFC5ではVA-LCD液晶パネルを採用することで、版下が透けることなくクリアな文字表記に。視認性が向上している

 

 

しかしテインには、EDFCに対するカスタマーからのさらなる要望の声も届いていた。たとえば、モーターの作動音が気になるとか、コントローラーの液晶画面を見やすくしてほしい、クルマ酔いをしないよう自動で減衰力調整ができないか、という要望などがあった。

 

ハイブリッドカーや車両の静音化が進み、ステッピングモーターの作動音を抑えることも課題だった。ステッピングモーターの駆動方式を変更して静音化を図っている

 

 

 

クルマ酔いはタイヤのグリップ抜けや路面のうねりなどによって、不意にGが抜けるような動きが要因となって起こりやすい。エレベーターやジェットコースターに乗っているときなどに感じる、内蔵が浮き上がるような感じがそれだ。では、そういった不意の動きを自動で制御するためにはどうすればいいのか。テインはその問題を解決するために、芝浦工業大学、システム理工学部の渡邉大教授に協力を仰ぎ、産学協同開発を進めた。

 

 

そこで考えられたのが、躍度(やくど・ジャーク)制御である。本来減衰力というのは、平らな路面を走っているときにはほぼ必要なく、加速や減速、あるいはコーナリングフォースが掛かったときなど、ボディがいずれかの方向に傾いたときのみ、硬くできればいい。

 

「躍度(やくど)」について説明 前編はこちら

 

しかし一般的なサスペンションでは、減衰力が硬いと硬いままなので乗り心地は悪くなりがちだし、軟らかくすると乗り心地はよくても、コーナーの進入では速く大きくボディが傾き、タイヤのグリップ力の限界を超えてしまいがちとなる。

 

 

 

そういった動きを抑えるため、ショックアブソーバー内部のピストンには、さまざまな大きさや硬さのシムを重ねることで、ショックアブソーバーがゆっくり動くとき、速く動くときの減衰力をコントロールしているのだが、しかしこのような物理的な方法には限界がある。

 

 

というのも、クルマが旋回するときのショックアブソーバーは、ステアリングを切りはじめた瞬間のみ一気に動き、その後すぐに定常となるからだ。軟らかいショックアブソーバーでは、切りはじめ瞬間の動きが速く大きく、その後定常に戻ろうとするときには戻りすぎてしまう。つまりオーバーシュートが大きくなってしまう。

 

その一方、減衰力が硬いショックアブソーバーでは、ステアリングに対する反応はよくなるが、定常自体がその硬さに近いものとなるため、普段の乗り味も硬い。

 

ということは、自動的にステアリングの切り始めのみ減衰力を硬くし、定常時には柔らかいものとできればいいのだが‥‥‥。

 

 

こういった動きを測定するためには、一般的にはヨー角の加速度を測るヨーレートセンサーを用いればいい。だがそれは高価なものになる。そこで渡邉教授がEDFCに利用したのが、躍度を用いた制御方法だった。

 

躍度(JERK)モードで走行すると、切りはじめの反応のよさ、切り返しの早さと安定感を確認できた。このとき、モニターの数値が瞬時に細かく変わっている。コーナーでのフロント外輪とリア内輪、リア外輪とフロント内輪がセットで数値は4段くらいの差で瞬間的に動いていた。 

 

 

躍度は、すでに装備されている3舳の加速度センサーから得られる、Gの変化量をベースにして、計算式で求めることができる。物理的な数値自体は角加速度とは違うのだが、角加速度の変化で描かれる波形と、計算によって得られた躍度の波形はほぼ同じものとなる。そこでこの躍度をベースとして、減衰係数を可変制御するよう設定したのが、EDFC5の最大のポイントである。

 

 

これによってEDFC5では、ステアリングの切り始めや、加速減速のごく初期の段階のみ減衰力を高め、定常に戻るときには徐々に緩めていく、という制御が可能となった。もちろん、オーバーシュートに対しても制御を行なっているため、不意の動きはほぼ起きない。さらに、そういった変化を緩やかなものとするため、これまでは64段階だった減衰力調整は、最大96段階までステップを細かくしている。

 

 

 

この特性は、スポーツ走行にも大きな影響をもたらしている。EDFCは4輪それぞれのショックアブソーバーを独立制御できるため、たとえば左コーナー進入では、右前輪を強めにし左前輪は弱め、後輪は右を弱めで左を強めとすることで、自然にインに向くようにし、そこから定常へと戻していくことで、スムーズにコーナーからの脱出ができるようになっている。

 

その上でEDFC5には、AIによる自主学習機能もある。アクセルやブレーキの踏み方、ステアリング操作の仕方などを躍度によって数値化し、その傾向を学習していくことで、あらかじめメモリされている躍度に応じた変化幅を自動補正してくれる。

 

 

このAI学習は、10〜20分ほど走れば完了する。サーキット走行を行う前には一度リセットをするとそれまで移動してきたときの情報が初期化され、その後の走行で新たに学習をおこなってくれる。走行会に参加するときなどは、こうすれば1本目から躍度制御を活かすことができるだろう。

 

 

もうひとつ大きいのは、モーターの作動音が驚くほど小さくなったということだ。実際にこのEDFC5を装備したZN8 GR86と、ZD8 BRZに試乗をしてみたのだが、丸ごと新システムを採用していたGR86のほうは、かなり意識をしていてもモーターの作動音がほとんど聴こえない。比較のため前型のステッピングモーターにEDFC5のコントローラーをセットしたBRZの方では、作動音は聞こえる聞こえるが、しかしEDFCアクティブプロの時と比べると、はるかに小さいものとなっていた。

 

 

そう、このEDFC5は、コントローラーキットが単品販売されていて、EDFCアクティブプロからのアップグレードも可能なのだ。もうひとついっておくと、この新型コントローラーは最大8個のモーターの制御が可能。つまり、伸縮別の減衰力調整ダンパーにも対応できるようになっている。

 

 

 

では実際の躍度制御はどんなものなのか。今回試乗したGR86とBRZには、これもテインの新製品である車高調整式サスキット『RX1』がセットされていた。このサスは、複筒式全長調整で、H.B.S.(ハイドロバンプストッパー)を装備したもの。装備されていたスプリングのレートは、前後ともに6kg/mmというもの。

 

まずはBRZで、躍度制御なしの状態で走ったのだが、このRX1はしなやかに動き、試乗コースであった箱根ターンパイクのうねりのある路面でも、その動きを吸収してくれていた。躍度制御は入れていないが、これまで通りのアクティブな制御はしてくれているので、乗り心地が悪いわけでもなく、ステアリングの切り始めなど、そのフィールに関しても問題はない。前後とも225/40R18のポテンザRE-71RSのグリップ力もしっかり感じられていた。

 

 

ここで躍度制御を入れると、驚くほどに印象が変わった。違いが大きかったのは、ステアリングを切り始めたその瞬間だ。クルマがすっとインに向くようになった。

言葉にするのは難しいのだが、ステアリングを切ろうとしたらすでにインに向きはじめているというくらい鋭くなった感じだ。ただし、この感度も学習や好みで変えることができる。

躍度制御に慣れてしまえば、より無駄のないターンインができ、より早いタイミングでアクセルを踏み込めるようになるはずだ。

 

同じ足まわり、タイヤ、同じ制御モードでも、BRZとGR86では乗り味は大違いだった

 

 

GR86では、躍度制御を入れると、その鋭さがより強く感じられるようになっていた。とくに違いを感じたのは、登りのコーナー。BRZではリアが沈んだ状態からのアクセルオンで、わずかにコーナー外側の後輪が沈む込むようなイメージがあったが、GR86ではそういうテイストはなく、進入からターンイン、脱出にかけて躍度制御なしよりもはっきりと鋭く小さく回り、早めにアクセルを踏んでいける。

 

BRZもGR86も、制御のベースとなる減衰力が同じものとなっていたため、おそらくだがこれは、スタビまわりの違いが効いているのではないかと想像できるところ。そのためBRZでは、若干ベースをハード側に設定しておくと、よりいいのかもしれない。

 

 

とはいっても、どちらも走っていればその気持ちよさに慣れてしまう。躍度制御をOFFにして走ってみたのだが、ありとなしのどちらが愉しいか、速いかといわれれば、間違いなく躍度制御ありのほうだ。

 

今回は限られた時間内での試乗だったためにできなかったが、より細かく自分好みにベースの設定やステップの設定をしていくことも可能だ。このEDFC5は、EDFCアクティブプロが登場したときの驚きを超える、セッティング能力の大きな助けとなるシステムといえる。

 

 

■テイン TEL045-810-5501 https://www.tein.co.jp/

 






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