編集部・佐藤のTOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cup クラブマンレースRd5.富士 挑戦記 「レースまでの3ヶ月 集中ドラテク練習の結果やいかに!?」

2025/10/01 11:10

 

編集部・佐藤のTOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cup クラブマンレースRd5.富士 挑戦記

 

レースまでの3ヶ月 

集中ドラテク練習の結果やいかに!?

 

ドラテク記事をつくるのが好きなレブスピード編集部員によるレース参戦記
マイカーにワンメイク車両を購入して3ヶ月後のレースまで練習して挑んだが、果たして‥‥‥

 

Photos/井上 誠, 益田和久 ,REVSPEED Text/佐藤和徳

 

 

 


 

ドラテク記事制作がもはやライフワークとなっているレブスピード編集部の佐藤。2005 年と大昔ではニュル24 時間耐久でクラス優勝や、2019 年のロードスター・パーティレース交流戦ではポールポジションを獲得したこともある。が‥‥‥、スプリントレース出場は6 年ぶり。ひさびさのサーキット走行ではリハビリが必要で、シフトダウンでシフトロックも多かった。

 

 


凝縮された3カ月間で
できたこと、できなったこと

 

これを書いている編集部・佐藤はドラテク・オタクを自認している。そして、スポーツドライビングの先にある、速く走るレーシングテクニックに興味がある。

 

そこで自身のドラテクレベルの確認をしたいといっても、何も超激戦のカテゴリーに参戦場所を選ばなくてもいいのだが、年齢も55歳だし(#55ゼッケンは偶然)、出たいレースにはいま出ておかないとという考えがあった。

 

 

ワンメイク車両を購入し、出場した9月の第5戦・富士まで約3カ月。このレース参戦に当たっては、車両の面倒からドラテク指南まで、アクシアの福嶌稔大さんに全面的にお世話になった。富士のスポーツ走行に通い、車載映像を福嶌さんに診てもらい、ドラテクを矯正してもらうことが続く。

 

福嶌さんがレクチャーするレーシングテクニックと、自己流ドラテクには、大きなギャップがあった。ここでは、速く走りたいと願うクラブマンにひとつでも役立てばと思い、どんなやりとりがあったか紹介していきたい。


アクシア 福嶌稔大さん

数々のレースでの実績やセッティング能力、そして理論的なドラテク解説で、福嶌さんのもとにはワンメイクレーサーが集う。佐藤も3カ月間みっちりとお世話になり、その濃密な内容から、前を走れるハズだと練習を重ねた。

 


〈指摘ポイント①〉

タイヤ摩擦円は

縦楕円型である 

(ラグビーボール形状)

 

 

タイヤはレース指定のデイレッツァZⅢCUP。ブレーキも指定部品であるアドヴィックスの大径ローター&キャリパーが備わる。フル制動では優秀なABSも相まって、1.25tの車両重量でも瞬時に高い縦Gを立ち上げられる。

 

その強い縦Gの感覚のままブレーキを抜きつつ舵角を入れて高い横Gにドンと移行させてしまうと、コーナー前輪外側で215サイズのタイヤは簡単に倒れてしまい、アンダーステアが発生。タイヤが発生できる摩擦円は真円ではなく、縦楕円型のラグビーボール形状なのだった。

 

タイヤは横には転がらないのだから当然とはいえる。まずはここからの理解からだった。

 

 


〈指摘ポイント②〉

フロントタイヤを倒すと

オーバーステアになる

 

前輪外側タイヤが横荷重過多で倒れて形状が変わると、アンダーステアになる。その後、タイヤが倒れたことでこの1輪に急激な走行抵抗が発生し、「前輪外側が転がらない(前輪が走らない)」現象が起きてしまう。それに起因してクルマの前外側が寸詰まって、オーバーステアが発生していた。だが、指摘されるまで、それがオーバーの理由とわからず、リアセッティングの問題と思っていた。

 


〈指摘ポイント③〉

タッチアンドゴーと

遠心力の最大地点 

 

クリップまでを舵角を含めて減速区間としていた。しかし、曲げきれずに舵角が大きく残る。大負荷でタイヤを倒しているので形状がもとに戻るのに時間が掛かり、倒れた抵抗も相まって加速も鈍った。これを直すのに、「飛行機のタッチアンドゴー」をイメージすべきだと指摘された。

 

クリップまで急降下したが、機首を上げて上昇するのに時間が掛かる。タイムを出すにはもっと手前で曲げ終えて、クリップにはアクセルを入れて機首を上げて加速していかないとならない。そこでコーナリングを手前にするために、横Gの最大地点をクリップ手前(実際はクリップ以降でも)にイメージしていく。

 


〈指摘ポイント④〉

急ハンドルは後でしっぺがえし

タイヤは減衰しない 

 

自覚しない急ハンドルが顕著だった。急なタイヤへの入力は、必ずしっぺ返しがある。たとえば、タイヤ&ホイール単体を高いところから落とせば、パーンと高い音とともに跳ね返る。ゆっくりとハンドル操作しているつもりだったが、コカ・コーラコーナーなどで挙動を乱す要因になっていた。

 


〈指摘ポイント⑤ 〉

ハンドルはキッカケで

ロール→アクセルで曲げる

 

ここからグンとレーシングな話になる。ワンメイクレースでは、「クリップまでブレーキを残して最大舵角に。クリップからアクセルON」の基本運転では、まるで後半に埋もれてしまう。

 

 

福嶌さんは生ビールにたとえた。「このクラブマンレースで白い泡の部分であるトップから約2〜3割くらいが、ロールとアクセルで曲げている。後の7割の液体部分は一般的なハンドルに頼って曲げるドライバー」だと比率をたとえていた。

 

 

上の泡の部分に行きたいのだが、そのためのレーシングなコーナリング操作はこうだ。

 

 

①ボトム:強い初期制動のブレーキングで前後タイヤを押えて、リリースと同時に舵角開始で(その荷重を抜かずに)横荷重に移していく。

 

 

②ロール:横荷重に移すには、後外側タイヤに適切に荷重を移すためアクセルを入れる。何もペダル操作をしないで待つ選択はない。外輪2輪に横荷重が移ったロールの瞬間(※ 下記追記)、クルマはスッと瞬間的に向きを変える(ヨーモーメント旋回と解説する人もいる)。 アクセルONでリアタイヤ荷重を入れているので、荷重抜けのテールスライドも起きない。「タイヤと路面を捕まえている(キャッチしている)」状態と福嶌さんはたとえる。

 

 

③トラクション:クルマが旋回するモーションが起きており、しかもリアタイヤはすでに押えている(捕まえている)ことで、LSD効果も相まって、アクセルONで安定しながら向きを変えられる。 この①②③の一連の操作は、クリップまでの話である。

 

 

(※レブスピードwebでの追記 ボーゲン)
スキーのボーゲンで曲がるイメージ。曲がる外側の足のスキー板をイメージする。その外側の板のエッジ側面に荷重が掛かるとクルッとターンできる。
もし、スキー板の前側にしか荷重が入っていないとターンできない。短時間でクルッと回れるのは、あくまでスキー板の前後のエッジに荷重が乗って、重心もセンター付近で、回転軸が中心にある時だけである。

 

 

 


〈指摘ポイント⑥ 〉

ハンドルではなく

リアで曲げる

 

ハンドルはロールで曲がるためのキッカケである。クルッと回る旋回姿勢にもちこめれば舵角も少なく抵抗も少ない。タイヤ負担も、後半のタレも少なくなる。

 

レースに向けての練習では、同じく福嶌さんにレクチャーを受ける(白い泡の部分にいる上位ランカーの)咲川めり選手に車載を観せてもらった。クリップまでに曲げるために修正舵の地点も違うし、圧倒的に舵角量も少ない。当然、コースでもブッチぎられた。

 

この上位陣のような運転が本番までできずに、予選ではトップと2秒以上離される。迎えた決勝では追突されて最後尾に転落。それでも、チェッカーまで諦めずこの操作の練習をしていた。

 

センスの問題か練習不足か? それでも「白い泡」の世界を見たかった。55歳の夏は終わった。でも、まだ諦めてはいない。ドラテク練習は生き甲斐だからだ。

 

 

話はまだまだつづく。

 


アドヴィックスのブレーキパッドから
2種類の組み合わせをテスト

 

 

本企画ではアドヴィックスのブレーキパッドを装着。テストで2種類のパッドの組み合わせを試した。set1でも踏力によるコントロール性は十分だと感じた。しかし、セクター3 では、曲がるブレーキでのABS 介入が大きく、真っ直ぐ止まってV 字に曲がるような走りに変化していった。set2 はプロクラスをはじめ、多くのユーザーが使用。こちらが自然な効きで、この組み合わせを選ぶことにする。

 

■アドヴィックス https://www.advics.co.jp/ 

 

 

アドヴィックスのテストでは、技術開発の藤井弘志さんにペダル操作が映った車載も観てもらった。「プロと比べて、空走も多く、初期の踏力も低いようです」と指摘される。

このCUPカー用パッドの驚くべきは減りの少なさ。日常走行の温度域から軽い踏力でも効きは十分で、スポーツ走行でラップを重ねてもフェードを感じない。ダストは多いもののペダルは深くならず、そのまま帰路についても鳴くこともない。タフで高バランスだ。

 

ワンメイクレースのキャリパーキットはエントラントでないと購入できない。一般ユーザー向けには、同じ性能を享受できるハイパフォーマンスブレーキキットが発売されている(キャリパー色は青も設定あり)。パッドも2 タイプから選択可能(※)フルキット価格 55 万8000 円(税別) ●問い合せ アドヴィックスセールス TEL 050-3094-4299

 

 


DIREZZA ZⅢ CUP

クラブマンレース指定タイヤのディレッツァZⅢ CUP のサイズは215/45R17。空気圧は極端に低めから高めまで3カ月の間に違いを試した。だが、台風の影響もあり、直前でニュータイヤの練習がほぼできず‥‥‥。予選でニューの操縦性の違いに戸惑い、旋回姿勢どころかアクセルでも曲げれず、アンダーに陥ってしまった。上位陣はこのZ Ⅲ CUP のニューならではの扱いはもちろん、一発タイムアップを果たしている。ハンドルに頼って曲げる佐藤のタイヤは、負荷が大きく掛かる前輪のセンターリブが斜めに削れてしまった。上位陣はFR 走りで後輪から減る。

 

■ダンロップタイヤ https://tyre.dunlop.co.jp/

 

 


CLOSE-UP WHEEL

NT03RR for GR86/BRZ CUP

カラー:White

 

 

Racing GTC02 for GR86/BRZ CUP

カラー:Dark Copper

 

レースカーにチョイスしたエンケイのホイールマッチングを紹介。GTC02 とNT03RR のいずれもカップカーでの装着率が高い。GR86 / BRZ Cup 専用ホイールで、2 モデルともに重量は7.9kg と軽量になっている。そして、レースではエンケイの強靭さに助けられた(後述)。

 

■エンケイ https://www.enkei.co.jp/ 


車両はレース直前にREVSPEED カラーとなり、ルーフやリアスポ、ミラーはカーボン調にラッピングされている。

 

カラーリング協力/■ HID  ■ FrogDrive https://frogdrive.net/ ■カーラッピングサービス

 

 


BRIDE XERO RS PLUS 

ブリッドのXERO RS PLUSを装着。頭部をサポートする大型ヘッドガードを装備したレーシングスポーツシートだ。少しでもリアタイヤの接地感や旋回挙動が感じられることを願い、低く、そして寝かせて装着した。

 

■ブリッド TEL052-689-2611 https://bride-jp.com

 

 


予選からレースの模様

レースウィークの水曜日にベストタイム2分6秒7(ユーズド)が出た。予選はアタック2周ともに引っ掛かり、4 脱も2回取られる。参加は67台。コンソレーションレース行きが頭をよぎったが、2分7秒2で予選は何とか通過。33 番グリッドからのスタートとなる。

 

 

 

空気圧高めがよかったのか、スタートからダンロップコーナーまで何台も抜いていったのだが‥‥‥。

 


たとえ最後尾に落ちても
チェッカーまでドラテク鍛錬

決勝1周目のダンロップコーナーふたつ目の立ち上がりで、ドンとヒットされてしまいスピン→コースアウト。「リア足が曲がったか」と一度は退避路に向かうものの、まだ走れそうだったためコースに復帰。以前、強い衝撃でホイールが割れてレースをリタイヤした経験があるが、このエンケイのホイールは強靭で完走に導いてくれた。遠く離れた最後尾にも追いつけたし、コースアウトして遅れた車両ともバトルを楽しめた。ちなみにアクセル全開のスーパーシフトは練習からレースチェッカーまでとうとうしなかった(スペアMT もないので)。

 


チェッカーまで「リアを使って曲げる」ことに挑んだ結果の写真。(上)どうしても直線からのブレーキング直後に、リアにも荷重が入ったロールの旋回姿勢にできず、ハンドル依存の曲がり方が多かった。(下)ヘアピンは、たまにスッと曲がって、アクセルをクリップ手前から踏んでいけることもあった。これは100R からの横G の振り返えしで、勝手に逆方向にリアが張り出してくれたこともある。偶然の脱出姿勢か!?

 

上)しかし、急勾配のセクター3ではやはりロールで曲げられずハンドル依存に。

 

(参考)同日に行われたプロフェッショナルクラスの写真。プロは必ずクリップまでにこの姿勢に持ち込んでいる。クルマや、タイヤが、サスが、どうであろうと、進入がどうであろうと、クリップまでに必ずこの姿勢に持ち込んでいる。

 

 

 


レース出場に向けてさまざまなアドバイス

吉田正浩 選手

# 55 号車の元オーナーである吉田正浩選手も福嶌さんに指導を受けている。吉田選手の練習時の2分5秒9(ユーズド。しかもスーパーシフトではなくゆっくりギャチェンジ操作)での車載映像も観せてもらったが、やはりクリップ手前から全開にできれば速いタイムが出ることの証明だった。参戦準備のアドバイスからレースウィークまでまるまるお世話になった。
 

求める挙動のためには「勢い」も必要です

咲川めり 選手

咲川めり選手も福嶌さんの指導を受けている。その咲川選手に佐藤の車載を観てもらうと「全体的に勢いとリズムが足りませんね」との答え。福嶌さんにもロールで曲がる姿勢に持ち込むのは、「リズムとメリハリと車速の勢い」といわれていたのだった。咲川選手と練習でも一緒のピットだったが、L.S.D. の仕様変更などロガーで違いを検証しているのが印象的だった。ドラテク雲上の存在! B コーナーでタコ踊りする映像を観て「そうなるのもわかりますが、そうならないように操作しています」ともアドバイス。

 

 


セッティングからドラテク指導をはじめ、福嶌さんには大変お世話になりました。凹んだ側面の修理もどうぞお願いしたします!(ペコリ)

 

 

取材協力/ Garage19 MACHIDA 東京都町田市根岸2-1-5 TEL042-793-4050 https://www.garage19.jp/






  • Amazon特別プロモーション