車速によってブレーキの前後バランスの効きが変わるパッドを特注! これを武器にJAFサーキットトライアルで好成績を上げているクラブマンの久保侑大さんにインタビュー!!

2024/07/31 13:25

車速によってブレーキの前後バランスの効きが変わるパッドを特注!

 

これを武器にJAFサーキットトライアルで好成績を上げている

クラブマンの久保侑大さんにインタビュー!!

 

 

レブスピード9月号はブレーキ特集。web限定の特別記事をお届け!

 

 

 

 

久保侑大さん(左)の独自理論が具現化しているZC32Sスイフトスポーツとブレーキパッドを谷川達也選手が試乗した。2024年4月20日 岡山国際サーキット レブスピードミーティングにて。記事はこちら。

 

 

久保侑大さんは某自動車メーカーに勤務。趣味としてZC32Sスイフトスポーツや、MXPA10ヤリスでサーキット走行を楽しんでいるクラブマンだ。

 

岡山国際サーキットで開催されているJAFサーキットトライアルCT5クラスでは、排気量が上の車両を相手に、ZC32Sで好成績を上げている。秘訣は特注のブレーキパッドだという。

 

久保さん愛車のZC32Sスイフトスポーツ(レブスピード2024年7月号より)

 

そして、取材していても、久保さん独自の理論でタイムアップを達成している様はとても興味深い。

 

独自に開発した特注ブレーキパッドでは、車速によって効きの前後バランスを変えているという。

 

それも、ABSの介入と、前傾姿勢を防ぐブレーキだという。リアが軽いFFでそんなことができるのか? 久保さん本人に聞いてみた!

 

 


編集部:ブレーキパッドの開発に4輪の車輪速は測定していますか? している場合、どのように計測しているのでしょうか?

 

久保さん:計測してますが、データの取り方は非公開とさせていただきます。

 

原理としては車輪速センサーで取得したパルスの周波数から各輪の車速と回転数を取得、これにより、ABSが作動する(タイヤの)スリップ率をロガーデータと比較することで見える化しております。

 

編集部:ABSが作動する(タイヤ)スリップ率はどれくらいなんですが?

 

久保さん:具体的な数値はお見せできませんが、近年の車は安全性向上のため、ABS作動判断のスリップ率は厳しくなっております。

 

ゆえにABSの反応速度が向上、運転が不慣れな方でも安心してブレーキが踏めるように(タイヤロックの防止)なった反面、モータースポーツの世界ではドライバーの思い通りの制動力を発揮できない、ブレーキングにストレスを抱える状態になっているのかなと私は思ってます(止まらない/ブレーキペダルが板になる‥‥‥)。

 

編集部:サーキットでは制動Gも強くなります。縦Gが強くなればリアもリフトして、リアロックの可能性も強くなり、ABSも入りすくなりますよね。

 

久保さん:当然です。浮いて空転すると摩擦力が減って、ロックしますね。

 

編集部:リアが浮くと、車輪速の数値はどれくらい変わってしまうものなんですか? ロックするギリギリでしたら、4輪の車輪速の数値はかわらないくらいだと思うのですが。スリップしたら、どれくらい数値が変わりますか?

 

久保さん:そのクルマとのセッティングによりますね。そのため、一概にはいえないです。測定していると、単純にリアタイヤにどれくらい荷重がキープされているかで違ってきます。

 

編集部:FFは、リアロックしやすいですね。

 

久保さん:かなりFFは不利ですね。タイヤをしっかり地面につけておかないとならない。離れているクルマを見ていると、リアロックしていますね。顕著に現象が出るクルマの例を上げると、ヤリスカップのヤリスとか。ZC33Sスイフトスポーツ。

 

 

編集部: 本題の特注ブレーキパッドの話に入る前に、リアタイヤを路面から離さないセッティングとは? スリップ率を調整するのに、パッドやシューだけでなく、リア足の仕上げ方はどうしているのですか? ワンメイクレースでよく聞く、1Gでのブッシュ締めでリア車高を下げてかつ足が伸びない方向ですか?

 

久保さん:スイフトではブレーキングでリアが浮き上がらないように車高/バネレート/減衰力を調整しております。細かなセッティングデータは誌面(5月号と7月号)に掲載頂いておりましたのでそこからご確認いただければと思います。

 

ヤリスカップカーに関しては当然レギュレーションで認められる範囲でセッティングしてます。1Gで締め直すだけで車高とキャンバー角、トー角は変わりますので(来年度シリーズ参戦に向け準備中)。ただし、変わるといっても微弱です。ですがワンメイクレースの世界だとするかしないかで大きく変わると思います。あと、ブレーキパッド、シューの選択は自由ですので、リアをしっかり効かしていける特性になるよう開発しております

 

 

編集部:でも、単純にリアに効くものを入れたら、効きすぎてリアロックして、逆にABS介入を招いてブ制動距離が伸びてしまうなんて話もありますよね。リアを効かせるつもりが、リアブレーキを離してしまってフロント効きバランスになっちゃったなんて。このような状態は、リアが伸びすぎなんですかね?

 

久保さん:フロントがダイブし過ぎてしまって、リアの液圧を抜いていってしまうやつです。ポイントは、リアも沈ませてノーズダウンさせないこと。重要なのはブレーキの効き方の順番です。

 

クルマもブレーキを効かせるには、必要以上にノーズダウンさせないことが重要なんです。自転車やバイクに乗られている方はイメージをつかめると思うんですが、2輪は別系統となっている前後ブレーキの操作順として、リアを掛けてからフロントを掛ける操作をしますよね(※フロントだけ強く掛けるとジャックナイフ現象になってしまう)。必ずリアブレーキをワンテンポ早めて、リアを沈めてからフロントも掛けて本制動となります。

 

でも、四輪の場合は同時にドンと効いてしまい、フロントが沈んで、リアが浮いてしまいます。

 

そこで、特注のパッドで調整して、先にリアからブレーキを掛けて、フロントを遅らせられれば、必要以上にノーズダウンはしないですよね。4輪で制動できますよね、というお話です。

 

 

編集部:このパッドについては、概念の特性グラフも資料としてお送りいただきました。パッドの特性に入る前に久保さんのブレーキの踏み方は?

 

久保さん:いまどきのクルマは構造的に、ガツンと踏むとABSが入りやすいんですね。そのため最初はジワッから、直後にグッと踏みます。

 

編集部:いきなりガンと踏むとABSが入りやすい?

 

久保さん:機構的にそうなんです。ABS介入を避ける方法として、ブレーキブースターに軽く圧を掛けてから、「いまから踏みますよ」とブレーキに伝えてからグッと踏むんです。

 

なんでもそうなんですが、急に大きな入力には必ず反発力がガッとあるんですね。

 

もともと踏力を上げるための装置がついているのに、そこで踏力が強過ぎるといきなりABS作動基準値を超えてしまいます。

 

そこで「いまから踏みますよ〜、いいですか?」とジワッと1cmか2cmか踏み込んでから、グググッと強く踏み込む感覚です。その間はほんのちょっとですよ。感覚では「スッ、グー」。それを秒数でいうと、その移行にはコンマ1秒ない気がしますね。だから、「ドン」とは踏まないです。

 

「ドン」と踏むよりも「ス、グー」のほうが、車の姿勢もいい方向に行きます。よく止まる方向に行きます。

 

この踏み方はドライもウエットもあまり違わないかと思いますが、ウエットはとくに気をつけた方がいいかなと思います。ブレーキブースターの気持ちを考えましょうと。「これからブレーキを掛けますよ」と、ブレーキブースターに問いかけの時間をほんのすこし取ってやることで制動が変わります。

 


編集部:さあ、本題の久保さん特注ブレーキパッドの特性を教えてください。

 

久保さん:タイムを縮める自身の理想の走りのためにも、DG-5に相談してフルオーダーでつくっています。

 

市販品は万人には向きますが、勝負の世界ではこだわりたいひとつの部品ですね。

 

編集部:久保さんが開発したパッドを入れたら挙動は難しくなる??

 

久保さん:そんなことないですよ。私はABSが入るのが嫌いなので、逆に安全マージンが増え、運転しやすくなります。

 

編集部:このグラフを見ると、リアパッドは、速度が遅いほど摩擦力は高い? そういうパッドってつくれるんですね!

 

久保さん:何でもつくれますよ。パッド特性の考えは、DG-5にお伝えし、製作頂いております。

 

編集部:DG-5はサスペンションのイメージが強いですが、パッドもオーダーでつくってくれるんですね。

 

久保さん:ドリフトの世界では、サイドブレーキはロックさせたいけど、フットブレーキはロックさせたくないという、わがままな要望が湧いてくるんですね。ならば、必然的にパッドも特注でつくる話につながっているようです。

 

 

 

編集部:そうして出来上がったパッドの特性のグラフの見方を教えてください。フロントの効きが上がるのはワンテンポ遅れる‥‥‥。

 

久保さん:リアを先に効かせたいわけです。そこでポイントはバイトの立ち上がりですね。リアが早く、フロントを遅くするんですよ。そうすると、自転車やバイクもどきの前傾制動を防ぐ方法、つまりリアを先に掛けて、フロントを後に効くことができるんです。

 

 

 

 

 

編集部:え〜と、このグラフは、左側のほうが車速が高いのですね。

 

久保さん:最大踏力で、最大摩擦係数まで到達する時間です。だから、リアのほうが応答性が速い。

 

それぞれのグラフから次のことがいえます。

 

【ブレーキの初期において】・・・自転車/バイクのブレーキシステムを応用(ジャックナイフ防止)        
・ブレーキの踏力における反応速度に関して Fr:緩やかに/Rr:素早く                
・ブレーキ自体の効き Fr:強く/Rr弱く                          
※目的:ABS介入を防ぐべく、RrブレーキをかけてからFrブレーキをかけたい(後ろ下がりな姿勢でブレーキングを開始)  
                                       
【ブレーキング中において】・・・ブレーキバランスはFr:7割、リア3割                
・ブレーキの踏力における反応速度に関して Fr:ー/Rr:ー                    
・ブレーキ自体の効き Fr:減速するほど弱く/Rr:減速するほど強く                
※目的:4輪を使った効率の良いブレーキング(MR車のブレーキング姿勢を参考)              
                                       
【曲がるブレーキングにおいて】・・・レーシングカートのブレーキを応用                
・ブレーキの踏力における反応速度に関して Fr:リニアに/Rr:引きずる                
・ブレーキ自体の効き Fr:弱く/Rr:強く                          
※目的:必要以上にノーズダウンさせないため(ブレーキングアンダー防止)              

 

 

フロントの効きがリアを追い越すポイントは、私が描いたグラフで交差する正確な厳密な速度は多少違うかもしれませんが、イメージはそのような感じです。競技専用の摩擦材をブレンドして、特性を変えていっているんです。

 

リアを先に効かせたい。だから、リアが制動初期にスッと立ち上がって、フロントはゆっくり立ち上がってくる。でも、高速度域でいきなりリアをガンと効かせてしまうと、リアロックでスピンしてしまう。だから、高い速度域ではリアの効きは落とす。だけどフロントは効く。そうするとスピンは回避できます。

 

 

 

そして、速度が落ちてくるにつれてリアは効きが上がってくる特性なので、その姿勢のままずっと止まろうとします。フロント7割、リア3割のバランスで効かせていくって感じです。

 

編集部:それなら、その姿勢を維持したまま、横へ荷重移動したロールに持っていきやすいですね! でも、コースの速度域によって、合う特性も変わってきそう。

 

 

久保さん:確かに変わりますがスイフトスポーツでの仕様は決まりました。次はヤリスカップカー用を着手してます。

 

ZC32Sでは、スリット入りローターとの組み合わせで。超高温までテストしている。

パッドだけで超高温まで対応するため、そのぶんライフやローター攻撃性の問題はある。タイムを追求する競技用の考えだ

 


 

写真のヤリスカップカーは来年度参戦に向け、現在準備推進中(ゼッケンは練習走行で必要なため仮の番号)

ヤリスのワンメイクレースではスリット入りローターは使えない。そこで、パッドへの溝の角度も入念に計算して特注している

 

 

久保さん:ヤリスについては、ワンメイクレース用のタイヤグリップが極めて強力ということはない。そこで、効き過ぎないように、ちょっと制動力を落とさないとならない。どこがいい塩梅かな? と探っている感じですね。

 

編集部:ここまでやっている方はクラブマンではなかなかいないですよね。

 

久保さん:いや、自身で「ブレーキパッドを作る」というだけで何いってんの?っていわれる感じですよね。

 

 

久保さん:あと、リアがシューのヤリスには、最後の最後に美味しいポイントがあって。これはヤリスならではなんですけど。

 

コーナーアプローチで、フロントは踏力に合わせてスッと制動力は抜けてほしい。残り過ぎるとブレーキングアンダーになるんです。ずっと噛んでるパッドだと曲がりにくくなる。単純に荷重が前になってしまうんです。「よく効くけど、パッド離れもいい」というのはなかなか難しいんです。

 

そこでヤリス用では、フロントの制動は抜けていくんですが、リアはしつこく残るようにしています。

 

リアをひたすらしつこく残す理由はカートの理論を応用しています。ブレーキングで意図的にリアのみ前後方向にグリップ力を使うことで横方向のグリップ力が低下する。フロントタイヤは横方向にグリップを使えますので前後で差異が出ます。

 

そうすると、フロントが曲がろうとするヨーモーメントに対してリアが負けて、ブレイクするんです。ブレーキングドリフトっぽい感じで、素早く曲がる姿勢になってターンインできます。

 

なぜ、そんなことをするかというと、ヤリスは構造的にセッテイングでトーアウトにできないからんですね。そこをブレーキで補っているわけです。

 

 

こういった自身のパッドについて、ヤリスはまだ開発途上ですが、ZC32Sスイフトではかなりの域に到達していると自負しています。

 


編集部:GR86/BRZの人なども欲しいと思わせるパッド特性ですね?

 

久保さん:どのクルマ用でもつくれるでしょう。また、作り方次第でもあります。どこの領域の性能とバランスを取るかの話であって、どんなABSのクルマでもブレーキでスッと曲げられるように、パッドでつくれると思います。

 


 

追記

 

後日情報として、久保さんが開発したブレーキパッドのスイフト用は現在正式販売に向け、DG-5を含めた各社と調整中。早ければ9月までにさまざまなショップからオリジナルブランドとしてリリースされていく見込み(ヤリスカップ用も現在開発推進中)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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