「バネレートをアップすれば誰でもタイムアップできるのか!?」プロとクラブマンで走りと感じ方の違いをチェック 〜ings GR86で実証テストin岡山国際サーキット〜

2023/06/01 16:12

ings GR86で実証テストin岡山国際サーキット

プロとクラブマンでの違いをチェック

 

 

バネレートをアップすれば

誰でもタイムアップできるのか!?

 

Photos/稲田浩章,清水良太郎 Text/村田純也

 

 

「タイム狙いにはハイグリップ & ハイレート」のセオリーが本当に正しいのか?

 イングス・GR86 でプロとアマの視点からスプリングレート比較テストを実施した

 

 

 レーシングドライバー 阪口良平(右)

スーパー GTなどのモータースポーツ で活躍するだけでなく、チューニング カーのタイムアタックまでマルチに こなす。ドライビングからセッティングまでオールOKの大ベテランだ

 

クラブマン代表 ings 南 大輔(左)

イングスの社員である南さんはアコード・ユーロRを駆るFFアタッカー。 このGR86をタイムアタック仕様にする過程で、プロだけでなく南さんのクラブマン目線でもチェックしていく

 

レートアップでタイムアップしたプロと、

逆に難しく感じたクラブマン

しかし、プロでもハードさに上限があった

 

最初に結論!「ハイグリップタイヤでサーキットを攻めるにはハイレート」という考え方の方向性自体は間違っていないが、レートアップすれば誰でもタイム短縮するのではないということが明らかになった。楽しく走るにはドライバーに合わせたレート選択が必要だった

 

 

 

ふたりの荷重移動量とコメントの違いとは

 

 サーキット直系エアロの空力を備えたストリートチューンドカーでどれだけの速さを引き出せるのか探るため、86やGRスープラでタイムアタックに取り組んできたイングス。そして今シーズンはGR86にスイッチする。

 

 このデモカーのGR86においては、プロだけではなく、クラブマンの意見も取り入れつつ開発を進める。そこでイングス社員ドライバーの南大輔さんも走行。この取材前に、南さんは鈴鹿ツインサーキットで事前に走行テストしている。バネレートはエンドレスの標準レートでフロント 12・リア14 kg/mm だったが、タイヤがRE-12Dだったためか軟らかく感じたという。

 

 それを踏まえて、今回の岡山国際サーキットでのレート変更テストでは、フロント 16・リア18 kg/mmからスタートし、リア20 kg/mmへのレートアップ、その後フロントも20 kg/mmへレートアップするパターンをテスト。阪口良平プロと南さんでフィールやタイムにどのような変化が現れるのかをチェックした。なお、タイヤはストリートを意識してRE-71 RSとしている。

 

それぞれの状況は追って紹介していくが、先にプロの総評を述べると「蹴り出しが重要なFRにはリアのレートアップが効果的」となった。ただ、クラブマン目線でチェックした南さんは、「リアのレートアップがフロントの接地感減少につながって乗りにくかった」様子。

 

両者の評価差はドライビングの荷重移動量にあると思われるため、タイム短縮するはずと誰でも安直にレートアップするべきではない。荷重が思うように掛からないと感じた際に、車高バランスやレートの変更を検討していくのがベストだ。

 


ここでテスト車両 ings GR86の紹介

サーキット直系の機能美で速さを底上げ!

 

 

 スーパー耐久のレーシング車両も装着するイングスのNスペックは、GR86の空力とスタイリングを引き上げてくれる機能美エアロだ。イングスではストリートチューンでどれだけの速さが引き出せるのかをコンセプトに、GR86のブラッシュアップとアップデート過程の検証をスタート。これまでZN6 86で構築したデータを半分ほどフィードバックした第一形態で、レート変更 でフィールやタイムにどのような影響が現れるのかを探った。

 

■ings NスペックR フロントバンパー、Nスペックサイドステッ プ、リアバンパー、フロントワイドエアロフェンダー、リアフェンダー アーチカバー、エアロボンネット、レインカバー、Z パワーウイング(1400 mm) ■ ENDLESS ZEAL Function.com(F16 kg / mm、R18 kg/mmからスタート)■ RE-71RS(F&R265/35R18)■VOLK RACING TE37 SAGA S-plu(s F&R 18 × 9.5 43) ■ ENDLESS レー シングモノ 4&S2 インチアップキット■ BRIDE ZETA IV ■アペックス DIN3 メーター ■ニューテック オイル(エンジン、ミッショ ン、デフ、ブレーキフルード)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GR86 の第一形態は ECU、デフなどをノーマルのままで、スポーツ走行に必須となるバケットシートやブレーキ、フットワーク、クーリング、そして自社のエアロパーツでタイムを狙う。検証過程で得られた走行データを 製品開発へ活かすため、AIMのロガーも装備している


前デモカー ZN6  86のデータを落とし込んだフットワーク

 

 

ボディ剛性や排気量が引き上げられたZN8  GR86だが、足まわりの基本構造は踏襲されている。 そのため、第一形態ではZN6  86 でセッティングを煮詰めたジール・ファンクションドットコム を投入。純粋に足まわり性能を評価するため、アーム類はノーマルのままとした

テストに使用したスプリングはエンドレスの X コイル R。フロントは 6 インチ、 リアは 5 インチ & ヘルパースプリングを使用し、トラクションに影響するリアの応答性を高めながら接地性の高さを引き出している

 

 


 

 

TEST 1

フロント16kg/mm、リア18kg/mm

 

 

86由来の基準セットは

アマチュアのいちばん評価

 

  基準セットとなるテスト1では 、以前にZN6  8 6のタイムアタックでもベストだったレートを GR86にも採用したものだ。

 

まずは阪口選手だが、「ターンインでフロントに荷重が乗り過ぎてしまうのか、とにかくアンダーステアが強い。 また、リアへ思うように荷重が掛けられないので、アクセルONでの蹴り出しが弱く感じますね。

 

ただ、ストリートをイメージすると乗り心地もよくて、この状態が安心感につながるはず。サーキットでのタイム狙いなら、車高が前後水平となっている現状からリヤだけ少し下げてやるだけでもプラス方向の効果が出ると思いますし、リヤをレートアップしていくと蹴り出しの強さにつながって格段によくなるでしょう」とのこと。

 

一 方の南さんは、「FRでは初の岡山国際での走行ですが、多少アンダーステアに感じるもののオーバーステアを心配することのない素直な挙動で乗りやすかった」とコメント。

 

 

ふたりのベストタイムとセクタータイムの違い。そして下のグラフはデジスパイスのデータだ。赤が阪口プロ、青がクラブマンの南さん。「乗っていて、とくに何も起こらない」と南さん。マイク・ナイトでの車速が大きく違うが、このようなコーナーはプロと大きく差がつくもの

 

 

 

 


TEST2

フロント16kg/mm、リア20kg/mm(リア車高5mmダウン)

 

当初はサスキットの標準(F12・R14kg/ mm ) までレートダウンしてのチェックを予定していたが、TEST1がストリートもカバーできる仕上がりと評価されたことから急きょテストを変更。レートアップでどのような変化が現れるのかを確認した

 

 

 


 

 

 

プロのいちばん評価は

荷重移動があってこそ!? 

 

「前後水平の車高バランスからリヤをわずか5㎜ダウンしただけでもステアリングを切り込んでいった時の手応えが増して、ターンインで現れていたアンダーステアを解消できましたね。また、リアのレートアップでリヤに荷重がしっかり掛けられるようになったことから、アクセルONでの蹴り出しも頼もしくなりました。

 

また、フィーリングとタイムの双方で効果的だったのは、電子制御の介入が緩和された部分。テスト1では蹴り出しの弱さから制御が急激に介入して違和感を感じていましたが、介入が緩やかになったことで違和感は解消されました」とのことで、実際にタイムも伸びている。

 

一方でクラブマンの南さんは「フロントの接地感が少なくなり、アンダーステアが強くなりました。けっして嫌な感じではないのですが、ベストな走りを引き出そうとすればアマチュアレベルだと難しくなった印象。テスト1の方が素直な挙動で乗りやすく感じましたね」と、ややマイナス評価。両者の評価違いは荷重移動がしっかり行なえているかどうかだろう。

 

「リアのレートアップで FRの要となる蹴り出しがしっかりしました」と阪口プロ

 

タイムアップした阪口プロに対し、タイムダウンしたクラブマンの南さん。とくに1コーナー、2コーナーでのボトムが落ちている。前後のレートの差が開くと、荷重移動量の感覚も難しく感じた様子

 


 

TEST3

フロント20kg/mm、リア20kg/mm

 

 

初期応答性は高まったが 荷重移動がシビアに……

 

プロ目線で好評価だったテスト2に対し、フロントを20kg/mmにレートアップしたテスト3。南さんは「乗りやすさはテスト1ですが、フロントの接地感が薄かったテスト2よりはテスト3のほうが乗りやすいですね。ターンインで外へ逃げていくのですが、そこまで嫌な感じはしませんでした」とのことだった。

 

しかし、阪口選手は「フロントのレートが大きく引き上げられてステアフィールこそリニアになりましたが、そこからリアに荷重移動させてキープするのが難しくなりました。グリップレベルを最大限に活かすためタイヤをつぶそうとするのですが、つぶした状態をキープしにくい。ドライビングの許容幅が一挙に狭くなりましたので、この状態はアンバランスですね」とマイナス評 価。タイムに関してはタイヤのタレも影響したとは思われるものの、プロ&アマともテスト2に対してだけでなくテスト1に対してもダウンする結果となっていた。

 

テスト2と比較すれば 前後同一のほうが乗りやすい」と南さん

 

 

テスト2と比べて阪口プロは「走りのスイートポットが極端に狭まった」とコメント。上り区間のセクター3をはじめ、テスト2のタイムを下回る。逆に南さんは1コーナー、2コーナーもテスト2よりもボトムスピードも上がり、自信あって走っている様子だ

 

 

 

 

 

■取材協力 イングス TEL0744-42-0611 https://www.ings-net.com/

 






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