【REVSPEED創刊30周年記念企画】世界に誇る日本のチューニング『super AUTOBACS SUNSHINE KOBE 宮本 昇』編
2020/12/25 17:53
- CATEGORY : コラム 創刊30周年記念インタビュー
super AUTOBACS SUNSHINE KOBE
市販されているパーツのみで、もちろん、保安基準適合内で、サーキットにおける速さを求める。そこで導き出された答えは、細部にわたるつくり込み、情報とデータ収集に基づくセッティング、少しも怠らないメンテナンス、そして、情熱の継承だった
『合法』という未踏のレギュレーションに鍛え抜かれたチューニング人生
ほんの十数年前まで、日本のチューニング界には『合法こそが非常識』とする風潮があった。宮本昇さんが、それまでのプロショップからスーパーオートバックスサンシャイン神戸(以下、SAサンシャイン神戸)に籍を移したのは、ちょうどそんな時代。プロショップでは当たり前の、ブランドを重視する姿勢や、セオリーを大事にするチューニングスタイルに疑問を感じ、飛び込んだ量販店という自由で縛りのない新天地。しかし、入社して間もなく、予想もしなかった大きな壁にぶつかる。それが『合法でないチューニングはいっさいNG』とする会社のコンプライアンスだ。
「いま思えば、当然の話です。でも、その頃は、愕然としました。たとえ、サーキット走行が目的のチューニングであったとしても絶対にダメ。触媒ひとつ外せない。それまでの自分には考えられないようなルールで『いったい、どうやってクルマを速くし、ユーザーの思いに応えればいいのか……』という感じ。お手上げでした」と、宮本さんは苦笑いしながら当時を振り返る。
しかし、この『合法』という規制こそが、その後、宮本さんのチューニング技術を飛躍的に高め、SAサンシャイン神戸の名を一躍チューニング界に知らしめる原動力になることとなった。
入社後しばらくは、文字どおり悪戦苦闘の日々。それまでの知識や経験をいったん白紙に戻して、完全な合法仕様というルール内で、クルマの性能を高める方法を模索し続けた。そして、宮本さんが導き出したひとつの方向性が、トータルバランスをそれまで以上に追求するチューニングだ。そんな新しい宮本スタイルの強い味方になってくれたのが、どんなブランドのパーツも、幅広く、分け隔てなく扱う量販店、SAサンシャイン神戸ならでは、といえるショップ展開だった。
「使えるパーツが限定的だと、どうしてもパーツに合わせたチューニングになってしまいます。しかし、使えるパーツの自由度が高ければ、自分自身の理想を追求するチューニングができる。とくにサーキットで速いクルマをつくる場合は、トータルバランスが何よりも重要で、いかにイメージどおりの性能に仕上げられるかがカギ。さまざまなパーツを試し、それぞれのパートにベストなものを起用できるのは、量販店という環境だったからこそ」と振り返る。
ブランドは問わず、マイナーなモノでも、試して結果が出たら、どんどん起用する。そして、無駄や無理のない、理想的なバランスのクルマをつくり上げる。そんな自らが築いたSAサンシャイン神戸のチューニングスタイルを、宮本さんは『雑種系』と自虐気味に称する。「さまざまなパーツの寄せ集めで、血統はない。でも、タフで速いクルマに仕上がる。それがウチのスタイル。犬も雑種のほうがタフだったするでしょ。あれと一緒です(笑)」。ちなみにパーツのテストやタイムアタックの遠征費、デモカー製作に掛かる費用は会社に稟議を回して獲得している。「出世よりも好きなことができる環境を選び、その生き方に徹しています」(笑)と、密かに熱い。企業人になっても、生涯チューナーであり、現場主義を貫いている。
インテリアはシートとステアリングのみ、スポーツタイプに交換している。ストリートも快適にこなせる合法仕様で、エアコンやナビも装備する
熱対策はトラブル回避のキモ。吸気はダクトでフロントから強制的に取り込む。大容量デフカバーはヒートシンクをドリルド加工して冷却力をアップ
NISMOが3.8ℓ化した380 RSのエンジンを、ECUと吸排気チューンで411psまで増強。トルクは47.2㎏/㎜
タイヤは275幅。ローテンション可能な4本通しだ。サスはスピリット(ダンパー)とハイパコの組み合わせ。ブレーキはシステムがENDLESS、パッドは制動屋だ
当初は大苦戦した合法チューンだったが、経験を積むほどに技術が高まり、クルマの性能も確実にアップ。カスタマーの要望にも完璧に応えられるようになる。完全合法という足かせで、サーキットではつねにライバルを追う身だったが、それも時代が進み、合法チューンが当たり前になってからは立場が逆転。今度は追われる身となった。宮本さんは、SAサンシャイン神戸を合法チューンのトップコンデンターのひとつに伸し上げたのだ。
筑波スーパーバトルをはじめ、タイムアタックにおけるデモカーの活躍がそのことを証明している。合法仕様のWRX STI(VAB)で、しかも、一般的なスポーツラジアルのRE‐71Rでマークした筑波1分01秒307のベストラップは、いまもスバルチューナーの集いにおける語り草。フェアレディZ380RSが鈴鹿でマークした2分18秒台も現場を驚かせた。もっとも、ライバル(ガレージ4413の高村嘉寿代表)がいると、仕様が過激になることもあったが……。
「タイムアタックはウチのメカニックの技術力が点数化される晴れ舞台。タイムはチューニングを手掛けたみんなの努力の表れ。彼らの日々の頑張りを讃えるためにも挑戦し続けたい」と熱く語る。
なお、SAサンシャイン神戸は、開発ドライバーもタイムアタックのドライバーも長年にわたり、谷川達也選手を起用。宮本さんを盛り立てる。
スバルチューンでは後発ながら好タイム連発のWRX STI。エンジンはフラッシュエディターによるECUチューンで、ブーストアップ仕様。ラジエーターはK&Gのトリプルターン
Z33同様に、インテリアはノーマル然。軽量化は微塵もなく、普段乗りも快適にこなせるつくり込み。アタックシーズンに向け、現在はフロントL.S.D.をリセッティング中
小杉洋史メカニックは宮本チューンに欠かせない右腕的存在。出会ったとき、彼は使えると、宮本さんは直感したという。一方、小杉さんは「破天荒過ぎて、できれば関わりたくないと思っていました」と正直なコメント
タイヤはA052、RE-12D、RE-71RSなどを使用。サスはスピリットのスペックSを専用セッティング。スプリングはスウィフト。ブレーキはENDLESSのシステムに制動屋のパッド
「乗り手の要望を聞き、それを解決する手段を考えるのがチューナーの仕事。そして、それがクルマを速くする、いちばんの方法。その点で谷川選手は適任です。ちなみに、それはカスタマー車両も同じ。つねにオーナーにとってのベストを追求する。それもまた『合法』という縛りがあったからこそ得られた、速いクルマづくりのノウハウかもしれません」と宮本さん。
神戸市の東部、大阪湾を望むショッピングモール『サンシャインワーフ神戸』の一角に建つ『スーパーオートバックスサンシャイン神戸』が宮本さんの仕事場。2階建ての広い店舗には、さまざまなカー用品が並び、チューニングパーツも星の数だ。ピットにはチューニング専用のエリアがあって、デモカーやカスタマー車両を整備する。
スーパーオートバックス サンシャイン神戸
兵庫県神戸市東灘区青木1-2-34
TEL 078-435-6006
https://www.woow-kobe.com/