【特別インタビュー】「球体もあり、しかもゴム製!?」エンドレスがリリースする革新的バンプラバー
【特別インタビュー】エンドレスがリリースする革新的メイクバンプラバー(MBR)
エンドレスが東京オートサロン2024で展示予定の『メイクバンプラバー(MBR)』。球体など特性違いをラインアップし、遊んで創るサスセッティングを提案する。
レブスピード1月号(11/26発売)ではいちはやく情報を掲載しているが、ここでは紹介しきれなかった深い内容を、取材時の生の声として対談形式でお伝えする。
photos/奥隅圭之 まとめ/鈴木 博
エンドレスアドバンス 花里祐弥さん(右)と渡海自動車 トレース事業部 渡海靖弘さん
バンプラバーでサスストロークを加減するセッティングを施し、もっとクルマを、走りの違いを楽しみましょうという提案だ。サーキットでのタイムアップ効果だけでなく、一般道でも走りの差を実感できる。
メイクバンプラバー(以下MBR)は、サスに組まれるバンプラバーと入れ替えて使用する。その点は、今までの手法と同じだ。しかし、秘める特性が、その概念を変える? エンドレスの花里祐弥さんと渡海自動車トレース事業部の渡海靖弘さんに聞いた。
メイクバンプラバーMBRにはフラットタイプ(円筒)と、バンプラバーとしては斬新な球体がある。そして、一般的なウレタンではなくゴムでできている
球体である、ゴムである理由は
第一にクルマを進ませるトラクションのため
エンドレス 花里祐弥さん(以下 敬称略)
「トレースさんとは長く協力関係にあって、一緒により良いものづくりを試みています。特にサス関係で、スーパー耐久を走らせているGRヤリスがそうです。その中で、確実にトラクションを出すためのパーツが必要になりました。まさに、このメイクバンプラバーです」
球体のバンプラバーは珍しい! レースでのトレンドですか。それとも独自の発想ですか?
渡海自動車 トレース事業部 渡海靖弘さん(以下 敬称略)
「独自のものです。すいぶん前にアイデアは挙がっていました。形状以外に、タイヤに近いゴムでつくっているのも特徴です。すべて自社内で、ゴムの調合から、材料を型に入れて熱して製品にするまで手掛けています」
花里
「バンプラバーはウレタン製が多い。これは球体という目新しさがあるのと、ベースにゴムを選んでいます。今回の一番のトピックです」
渡海
「発泡ウレタンやウレタンゴムに比べて、MBRはつぶれた後の弾性率(形が復元する性質)が凄く高いと表現しています。ヒステリシス、聞いた覚えがあると思います。もとの形に戻らないような意味合いがある。なのでMBRはヒステリシスにすれば小さい。ですが、ボクらはそれだけをいいたいわけではないんです」
開発車両のBRZにメイクバンプラバーを装着。富士スピードウェイをテスト走行中の花里さん。一般道でもタイヤの発熱具合が違うという
渡海
「例えばスプリングの選択でサスをゆったり動かすと、コーナーで外輪が路面に 引っ掛かって、クルマが前に進まなくなるケースがある。その現象を、僕らは「ヒステリシスが大きい」といっています。仮に運転はしやすくても、外輪側に複雑な動きが溜まるんです。課題でした。
そのヒステリシスの大きな状態の中に、ヒステリシスの小さいMBRを入れてバンプタッチを調整すると、その溜まりをMBRの特性で早く解放できて、足りなかったトラクションがしっかり出せた。クルマが前に行く。いいとこ取りにベストだったわけです」
花里
「バンプラバーは重さが掛かるとつぶれますが、ウレタンだと反発、要するに跳ね返す力には足りない。MBRは形状が戻る速さ、レスポンスに優れます。トラクションに効きました」
渡海
「それがさきほど話したMBR自体の弾性率。ヒステリシスの違い。溜まった状態をもとに戻そうとする力と速さの優位性です。ほかにもタイヤがかまぼこ状の路面を越えるとき。バンプラバーの構造によっては瞬間のクルマの動きに追従できなくて、タイヤが路面から浮く原因にもなるんです」
球体にフラットタイプ
形が形、可能な限り球体をメインに使う
開発のストーリーが見えたところで、形状などの特徴を教えてください。
花里
「みなさんが自身の運転やクルマの仕様に合ったパターンでラバータッチをセッティングできるよう、MBRは汎用性をもたせるため多くの種類を揃えています。だからMBR、正式名称がメイクバンプラバーというわけです」
大きさ、穴の個数でも特性が大きく変わってくる。これはゴムの体積の違いによる。それぞれ荷重による変化のグラフも掲載する
渡海
「形状は球体のほかにフラットタイプがあります。硬度もハード、ソフト、ミディアムと用意しています。形状、大きさ、高さなどで、MBR個々の体積が異なります。力を加えると外側に広がってつぶれるのは同じですが、体積の大小で過程に差が現れます。それがバネレートやストローク、個々のバンプラバーの特性になるわけです」。
球体3点比較グラフ
「グラフの読みは横軸がストローク、縦軸がバネレートととらえてよいです」(渡海さん)。①②③は径が異なるが硬度はミディアム。バネレートは非線形で径が大きいほど高く、ストロークもある。硬度を変えた例は④が①のハード、⑤が②のハード。ミディアムと同じストロークでバネレートは一段高い
渡海
「おおまかですが、径が大きくて体積があるとバネレートは上がる。高さがあるとストロークがとれる。フラットタイプで同じ形状でも、小さな穴が数個開いたものは体積が減る分やわらかい。ですが可能な限り球体をメインに使ってほしい。形が形。最も効果的です」
花里
「個々のMBRがストロークするとどうなるか。テストをすると、はっきり差が見られます。小さな穴もですが、じつは体積でバンプラバーの特性をコントロールするというのもMBRの注目ポイントです。特許取得を進めています」
フラットタイプ比較グラフ
■フラットタイプの特性
グラフの読み方は球体と同様。6種類のフラットタイプ。硬度は全部ミディアム。①水色と②紫色は同サイズだが②は穴あり。①の方が同ストロークでハイレート。③黒色と④黄色もしかり。⑤赤色と⑥緑色は同一の高さだが径が相違。大径の⑥は同ストロークでハイレート
重ねて使った場合の特性
渡海
「単体だけでなく、メイクバンプラバーのとおり、MBRをダンパーの長さやスペースなどに合わせて重ねて使えます。オリジナルの特性につくれます。よくあるタル型など、段のある長い形にしていないのもひとつそのためです」
■球体メイン+フラット 組み合わせの特性
①青はφ35で高さ20㎜のフラットタイプ。②橙色はφ36㎜の球体。組み合わせでは高さのぶんストロークがあり、バネレートは②球体の特性が後ろに延びた格好だ
リアに入れるとリアのグリップが増えるだけでなく
フロント内輪の接地性まで上る
レースに参戦し、商品開発のテストドライバーも務める花里さんのインプッションもまじえて、身近に分かる効果とセッティングの考えだ。
花里
「テスト車両のBRZはリアだけMBRにしています。それが結構ミソでして。球体をメインに試作のC型パッカーを組み合わせ、1G状態で軽くタッチさせています」
テスト車両のBRZ。車高調は同社のファンクション。MBRの球体は最小径。下端にバンプタッチ調整用のC型パッカー(白)10㎜厚が2枚。球体とC型パッカー間にはフラットのベースパッカー5㎜厚が2枚と2㎜厚が1枚入っている
BRZに組まれていたMBRの重ね方とパッカーの順
初めからタッチしていると、かなりバンプストロークが制限されるのでは?
花里
「タッチさせていますが、MBRは外側へ拡がってつぶれます。どんと途中でストロークが止まらない。じゃあ、リアをMBRにすると何が起こるか。グリップが増える。正解ですが、それ以上の効果があるんですよ。あとで説明します」
フラットタイプの組み合わせの特性
渡海
「MBRを組み合わせて使う場合、MBRとMBRの間にフラットタイプの薄いベースパッカーを入れないと、特性が本来からズレます。MBRを壊す原因にもなり、注意してほしいところです」
重ねて使う場合は、フラットタイプの薄いベースパッカー(中央)を間に挟むこと。その理由は下のグラフからもわかる
■フラットタイプの組み合わせの特性
①青色は単体。②橙色は同じ特性二つをパッカー(試作品)なしでの組み合わせ。③灰色は正しいパッカー併用。パッカーなしは本来のつぶれ方をしていない。バネレートも①と③では終点の数値はほぼイコールだが、②は途中からずれ始める
花里
「簡単にいうと1Gで最初からリアをバンプタッチさせるほど、それだけコーナーではリア外輪の沈みが少なくなります。それで対角のロールが改善できて、フロント内輪の接地とグリップが必然的に上がる。クルマが狙った方向へ進む。それに接地性が上がると、ブレーキングのアプローチやブレーキ温度まで変わるんですよ!」
リアのバネレートを高めずにMBRでも内輪の接地を稼げるわけですね。
花里
「バネレートを高くすると、伸び側のストローク量に影響します。いまの電子制御にしばられたクルマには、やはり避けたい。バネレートを抑えれば、伸び側のストロークを確保するのに有利です。そこでも接地性が上げられて、不要な制御やABSの介入を予防できます」
渡海
「横滑り防止装置により、ほぼいまのブレーキはあの制御の都合で、効きのバランスはフロントに依存してクルマを止めている。その分、姿勢が前傾になってリアが浮こうとする。ある程度、リアの接地性を保ってやらないとABSが介入してくる。必要なリアの接地も、MBRで稼げるんです」
BRZはFR。FFや4WDでも同様な効果が期待できますか?
花里
「やはり内輪の接地を上げられます。フロントL.S.D.の効きが強くなった感覚になるかもしれません。実際にスーパー耐久のGRヤリスでMBRあり、なしのタイムをユーズドタイヤで比べたら、MBRありは1.5秒も縮まった。フロントがびっくりするくらいグリップしました」
MBRのよさは分かってきましたが、初めからバンプタッチさせると乗り心地にはマイナスでは?
花里
「独特の乗り心地になります。いわれなければ、MBRが入っているのはわからないと思います。入れてあるといわれたら、何かゴムに乗っているみたい。そんな印象です」
渡海
「BRZに組んでいる、バンプタッチの位置が調整できる専用C型パッカーを設定する予定です。これはダンパーのシャフトに外から簡単に挟めます。サーキットで合わせた後、街中では乗り心地に抜いて走る。使い分けられます」
BRZが球体と併用していたMBR専用のバンプタッチ調整用C型パッカー。これは試作品
すべては東京オートサロンでの
エンドレスのブースで明かされる
このMBRは、2023年の東京オートサロンで試作モデルが披露された。2024年の東京オートサロンではエンドレスの商品ラインナップとして発表が行われる。
花里さん
「MBRは最初はリアに入れて、対角のロールの調整から始めると効果がわかりやすいと思います。これはMBRの特性だから可能なんです。東京オートサロン2024のエンドレス・ブースで実物を見て、触れて理解してもらえたら。その場で渡海さんと、皆さんの質問にお答えします。来場の際はぜひ寄ってください!」
ストリートから実戦までまたにかけて開発
時代も見据えた新型カッパーフリーパッド
2003年の東京オートサロンで試作品が展示されたカッパーフリー材のニューパッド。ステージをまたにかけた一年にわたるテストから発売が近づいてきた。材質に銅を使用しない時代を見据えての開発。写真はスーパー耐久第6戦で実際に使用し、3時間のレースを戦った後の新型パッド。あたりはよく、色合いも適度。ローター側も面が綺麗だ。
エンドレスではレースの厳しい実戦で使用し鍛えつつ、それをストリートにおいてもテストし、日常性も探る開発を行ってきた。相反する条件を、カッパーフリー材でも実現しようとしている。
花里
「低温での効きとローター攻撃性の少なさ。高温時の制動力とペダルストロークの安定性。踏力に応じたコントロールのしやすさ。新型パッドは銅を使わないぶん開発には苦労しましたが、街乗りのフィーリングもサーキット走行で高温に至るまでのフィ―リングも基本は変わりません。スポットは広く、パッドに求められるニーズを多く満たしました。当社の製品では新しい位置付けです。
低温でのローター攻撃性を減らせたのは大きい進化です。つけっ放しで街乗りをする。走行会に自走で行って楽しんで家へ帰る。そんな用途に応えられます。ボクらも会社からサーキットに出かけ、存分に走って戻るテストをしています。レースではスーパー耐久で試し、結果はとても良好。ストリートとサーキット、両面の実践からできあがりました」
幅広いクルマに対応できるという。これも東京オートサロン2024会場で詳細が公開される。
■エンドレスアドバンス TEL0267-67-0535 https://www.endless-sport.co.jp/